御曹司に海外へ連れ去られ、求愛されました。
「茜ちゃんはさ、俺じゃ嫌?」
長谷部さんがそう言うので、私は本から目を離し、傍らを見た。彼は私を見ず、海を眺めている。
「嫌っていうか……、そのタイミングとか悪いです。今はお仕事したいですし。それに、無理にこんな場所まで連れ出して、日本に返してくれない人なんて……」
「……そうだよなぁ」
長谷部さんは、膝を抱えて、私の方を見つめる。黒髪がさらさらとなびいて、頬は少し染まっていた。
「好きな人に夢中になるとね、いつもこう。とんでもないことしちゃってさ、怒られて、振られる。付き合った人はいたけど、やっぱり振られちゃって。だけど、茜ちゃんに会いたくて、一日に何回もお店に来た日があったよね?ああ、またやっちゃったんだろうな。しつこすぎて嫌われるんだろうな、って、思って、それでも会いたくて来た時。何も変わらず笑顔で居てくれてさ。この人しか、もう好きになれないって、思ったんだよね」
その澄んだ目。太陽が照り着いた、白い肌。恥ずかしそうに笑った、長谷部さんに、思わずドキッとしてしまった。