御曹司に海外へ連れ去られ、求愛されました。
「あ……」
太陽の光が陰る。雲が渡って来て、雨が降りそうだ。
「一旦家に戻ろう」
長谷部さんがそう言って、私に手を差し出した。少しためらったけれど、さっきの彼の、頬が染まった顔を思い出して、手を取ってしまった。この人はかっこいいけれど、愛嬌もあるし、中身は可愛い人なのかも知れない。そう思って。
別荘の中に入ると、外は雷雨になった。執事さんが全ての窓を締め切ってくれて、私たちは広々とした家の中で過ごす事になった。長谷部さんの愛犬──パピヨンのメグちゃんが私のところにやってくる。人懐っこいメグちゃんは、私の事をすぐに気に入ってくれて、手やほっぺを舐めてくれた。
「メグも分かるよな?茜ちゃんの良さを」
長谷部さんはうんうんと頷いて、メグちゃんの行動に同意していた。それが少しおかしくて、笑みを浮かべてしまう。だんだん気持ちが解けてしまっているのを自覚した。
「少し早いけど、食事する?」
「あ……そうします。あの……ありがとうございます。無理矢理なのは、その、嫌でしたけど、やっぱり良くしてもらってるので……」
ここに来てからというもの、専属シェフのイタリア料理を味わっており、それについては申し訳ないくらいだった。