大嫌い同士の大恋愛
 まさかの再会に、私の顔色は、青いを通り越して、土気色になっている。

 ――……あの、イジメっ子と、また会うなんて――……!

 グルグルとそれだけが頭を回っているが、自己紹介を終え、課長と話しているヤツを見やると、はた、と、目が合った。
 瞬間、グルリ、と、顔を背け、私は、自分の机に置かれた企画書を手に取る。

 ――とにかく、仕事しなきゃ。

 企画課のメンバーから出される企画書を読み込み、新しい商品開発にかかる材料や、コスト、様々な費用面での問題、必要なマンパワーなど。
 予想される問題をあぶり出すのが、私の仕事だ。
 正直、商品の企画や開発なんて、畑違いもいいところなのに――課長は、そういう人材が欲しかったらしい。

 下手に、知識のある人間よりも、素人目からの疑問点の方が、真理をついているから。

 そう言われ、逆らう術もなく、流されるままにここに来てしまった私は、日々、企画書とにらめっこしているのだ。

 すると、人影が下りてきて、顔を上げる。

「――……っ……!!!」

 瞬間、思い切り、イスごと距離を取った。

「……おい、うーちゃん」
「やめて。職場でしょうが」
「……名木沢、サン」
「……何でしょうか」
「何って、教育係だろうが。――オレは、まず、何をすればいいんだよ」

 私は、イスとともに定位置に戻ると、しかめ面を隠そうともせず、江陽をにらんだ。

「……何をえらそうに……」

 しかし、与えられた仕事は仕事である。
 私は、あからさまに嫌そうな顔をしながら、立ち上がった。
「――まずは、社内の案内でもするわ」
「そりゃあ、どうも」
 課長の元に行き、少し案内の為に席を外すと告げ、スタスタと企画課を出る。
「おい、置いていくな、う……名木沢サン」
 思い切り、うーちゃん呼びしそうだった江陽は、自分の手で口を塞ぎ、取り繕うように続けた。

「――……しっかし……小学校ぶりか……」

「そうだったかしら」

「――完全に忘れてただろ」

「覚えている必要なんて、無いでしょう。――ただの昔のクラスメートなんて」

 そう言い捨てると、江陽は、一瞬、口ごもった。

「――まあ、女性に対する態度は、相変わらずだったけれど」

 昔だって、私のそばにいる友達に食ってかかる事は、日常茶飯事。
 下手に見目が良いから、みんな、それを少しだけ嬉しがっていたのだけれど、私は心底嫌だった。
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