大嫌い同士の大恋愛
「……ど……う、せ……い?」
江陽は、私達を呆然と見つめたまま、独り言のようにつぶやいた。
「――そうだけど」
片桐さんは、まるで、牽制をするように、あっさりとうなづいて返す。
「羽津紀さんの同意は得ているからね」
「は?」
江陽の視線が、鋭く向けられ、私は一瞬怯む。
「……本気かよ」
「……アンタには、関係無いでしょう」
「羽津紀っ!」
怒鳴るように呼ばれ、視線を逸らす。
――大嫌いになるんだって言ったじゃない。
――なら、いちいち、気にしないでよ。
――私だって、アンタなんて大嫌いなんだから。
「三ノ宮くん、そろそろ良いかな。不動産屋、閉まっちゃうからさ」
気がつけば、エレベーターが到着していて、片桐さんがドアの開ボタンを押して待っていた。
「もう、良いでしょう。――お疲れ様」
「おい、うづ……」
江陽に最後まで言わせず、私はエレベーターに乗り込み、急いで扉を閉じる。
その向こうに見える、ヤツの表情を視界に入れたくなくて、うつむいたままで。
「良かったのかな?」
「何がですか」
「――まあ、良いか。一応、二、三件、物件の目途はついてるんだ」
「え、あ・」
――さすがに、仕事が早い。
いや、仕事ではないが。
私は、戸惑いながらもうなづく。
「……どの辺でしょうか」
「一応、通勤は徒歩圏内で、2LDK」
「え」
思わず、片桐さんを見上げてしまった。
――そんなに広い部屋?
けれど、私の動揺をよそに、彼は、平然と続けた。
「一緒の部屋で寝るのは、さすがに気まずいでしょ?」
「――……っ……!」
その言葉に、私は、目を見開いた。
――もしかして……。
「……同棲、ではなくて……ルームシェア、ですか……?」
片桐さんは、穏やかに微笑んで返す。
「さすがに、キミの気持ちが固まっていないうちから、一緒の部屋で寝泊まりはね。僕が我慢できないよ」
「かっ……片桐さん!」
意図するところを感じ取り、真っ赤になって彼をにらみ上げる。
「羽津紀さんが良いなら、1DKでも良いんだけど。まあ、その際は、それなりに覚悟してもらうけどね」
「――……2LDKでお願いします……」
からかい半分なのか、楽しそうに言われ、私は、ふてくされながらも、そう返したのだった。