大嫌い同士の大恋愛
23.本気で向き合ってあげて
「羽津紀ー?食べないの?」

「え、あ」

 聖の呼びかけに我に返った私は、手元の茶碗に手を伸ばす。
 ひとまず、片桐さんに言った通り、夕飯を彼女と一緒に食べはしているが――正直、先ほどのアレコレで、食は進まない。
「大丈夫?具合悪いなら――」
「ううん、そういうんじゃないから」
「でも」
 心配そうに私をのぞき込む聖に、少しだけ無理して笑い返す。
 そして、箸を置くと、真っ直ぐに彼女を見た。
「――えっと……今、片桐さんと……部屋、探してるの」
「――え」
「……立岩さんの事もあるし……社長にまで話が行っちゃったから――早目にって」
「……羽津紀」
 眉を寄せる聖は、何かを言いたげにしたが、飲み込んでくれた。
「……そっか……。……もう、引っ越しちゃうの?」
「まだ、決定してないけど……今日、不動産屋さん行って来たわ」
「遠くになっちゃう?」
「そうでもないわ。通勤は徒歩圏内にしてるし……ただ、実際に見てないから、保留中」
 私は、止めていた手を動かす。
 少々無理矢理にご飯を口に放り込むと、味噌汁を飲み終えた聖を見やった。
「――じゃあ……こうやって、一緒にご飯を食べるのも、あと少しになっちゃうんだね……」
 淋しそうに言うと、聖は、箸を置く。
「……まあ、そうね……」
「……でも、いつかは終わっちゃうんだもん。……そろそろ、自分でも何とかしなきゃだよね」
 そう言って微笑むが、次には真剣な表情に変わった。

「――羽津紀、今まで、本当にありがと」

「聖」

 頭を深々と下げ、そして、スッと上げると、聖はこれまでで一番綺麗に微笑んでみせた。
「――まあ、遠くに行く訳でも、会社を辞める訳でも無いんだし……落ち着いたら、また、ご飯行ったり、飲みに行ったりもできるわよ」
「うん。友達なのは、変わらないよ」
「当然でしょ。――アンタは、一生、私の大事な親友よ」
「アタシだって、そうだよ」
 お互いに笑い合うと、夕飯を食べ終え、片付けを終える。
 でも、どことなく淋しい空気のまま、聖を隣に送り出した。
 そして、ドアを閉めると、ふと、頬に涙が伝うのに気づく。

 この生活が、終わりに近づいている事を実感したせいか。

 ――どことない淋しさと、ままならないもどかしさを感じてしまい、私は、しばらくの間、うつむいて泣き続けた。
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