大嫌い同士の大恋愛
「――で、ココから上が社長室だから、気をつけて」
「……何だよ、気をつけろって……?」
六階まで、すべての階を説明。そして、エレベーター脇にある案内ボードを手でコツンと叩きながら、私は、江陽を見上げて言った。
――腹立たしいほどにデカくなりやがったコイツは、顔を真上に上げないと会話ができない。
すると、眉を寄せながら、聞き返された。
「――社長は、神出鬼没なの。……突然、部屋にやって来て、仕事の内容聞いていったり、鉢合わせした平社員を捕まえて、一日外回りに付き合わせたりするの」
「……は?」
「アンタは、関西だったから、実害が無かったみたいだけれど――本社のメンバーは、大体、一回は被害に遭ってるから」
「……そ、そうか……。……気をつけるわ」
江陽は、青くなって引きつりながら、うなづくと、私達は、五階の企画課に戻った。
「お帰り、二人とも。社長には、捕まらなかった?」
「ハイ。今日は無事に終わりました」
微妙な表情で、私と課長のやり取りを聞いていた江陽を見やると、その向こう側からの女性メンバーの視線に気づいた。
――ああ、さっそく、目を付けられてるわね……。
「じゃあ、名木沢クン、三ノ宮くんの班は、どうしようか」
課長にそう尋ねられ、私は、我に返る。
「ああ、そうですね」
「――班?」
キョトンとする江陽に、課長は、ご丁寧な説明をした。
「ウチ、ジャンルごとに班分けしてるんだよ。香辛料、シーズニング班、調味料班、レトルト班、新規企画班で、四つ」
そう言って、四、と、指で表しながら、課長は江陽を座ったまま見上げた。
「三ノ宮くん、希望はある?向こうじゃ営業だったから、いろいろ、アイデア持ってそうだけど?」
すると、江陽は、バッサリと告げる。
「――申し訳ありません。……できれば、女性の少ない班でお願いいたします」
「……え?」
目を丸くする課長に、私は、慌てて取り繕う。
「あ、あの、彼――」
女嫌いらしい、と、言ったところで――。
そう思ったけれど、江陽は、悪びれもせずに続けた。
「自分、今まで女性で痛い目みてるんで――少々、恐怖心があるんです」
――……は⁉
それを聞いた私の顔は――課長が慌てる程だった。
「な、名木沢クン、落ち着こう、ね?……キミも、男嫌いで有名だろ。気持ちはわかるんじゃないのかな?」
「――わかるはずないでしょう。こんなヤツと一緒にしないでください」
怒りを隠さない私に、課長は眉を下げる。
けれど、江陽は、代わりに、とばかりに言った。
「はあ⁉そりゃあ、こっちのセリフだ!何だよ、男嫌いって!キャラ付けでもしてんのか?」
「そんな訳、無いでしょう!アンタのせいじゃない!」
「は⁉言いがかりも――」
「忘れた訳⁉こっちは、アンタのしょうもない独占欲で、骨まで折ったっていうのに!」
そう口から零れ落ちた言葉は――戻らない。
一瞬で、ざわついた部屋の気配に気づいた時には、私は、自分の失言で地の底まで埋まりたくなってしまった。
「……何だよ、気をつけろって……?」
六階まで、すべての階を説明。そして、エレベーター脇にある案内ボードを手でコツンと叩きながら、私は、江陽を見上げて言った。
――腹立たしいほどにデカくなりやがったコイツは、顔を真上に上げないと会話ができない。
すると、眉を寄せながら、聞き返された。
「――社長は、神出鬼没なの。……突然、部屋にやって来て、仕事の内容聞いていったり、鉢合わせした平社員を捕まえて、一日外回りに付き合わせたりするの」
「……は?」
「アンタは、関西だったから、実害が無かったみたいだけれど――本社のメンバーは、大体、一回は被害に遭ってるから」
「……そ、そうか……。……気をつけるわ」
江陽は、青くなって引きつりながら、うなづくと、私達は、五階の企画課に戻った。
「お帰り、二人とも。社長には、捕まらなかった?」
「ハイ。今日は無事に終わりました」
微妙な表情で、私と課長のやり取りを聞いていた江陽を見やると、その向こう側からの女性メンバーの視線に気づいた。
――ああ、さっそく、目を付けられてるわね……。
「じゃあ、名木沢クン、三ノ宮くんの班は、どうしようか」
課長にそう尋ねられ、私は、我に返る。
「ああ、そうですね」
「――班?」
キョトンとする江陽に、課長は、ご丁寧な説明をした。
「ウチ、ジャンルごとに班分けしてるんだよ。香辛料、シーズニング班、調味料班、レトルト班、新規企画班で、四つ」
そう言って、四、と、指で表しながら、課長は江陽を座ったまま見上げた。
「三ノ宮くん、希望はある?向こうじゃ営業だったから、いろいろ、アイデア持ってそうだけど?」
すると、江陽は、バッサリと告げる。
「――申し訳ありません。……できれば、女性の少ない班でお願いいたします」
「……え?」
目を丸くする課長に、私は、慌てて取り繕う。
「あ、あの、彼――」
女嫌いらしい、と、言ったところで――。
そう思ったけれど、江陽は、悪びれもせずに続けた。
「自分、今まで女性で痛い目みてるんで――少々、恐怖心があるんです」
――……は⁉
それを聞いた私の顔は――課長が慌てる程だった。
「な、名木沢クン、落ち着こう、ね?……キミも、男嫌いで有名だろ。気持ちはわかるんじゃないのかな?」
「――わかるはずないでしょう。こんなヤツと一緒にしないでください」
怒りを隠さない私に、課長は眉を下げる。
けれど、江陽は、代わりに、とばかりに言った。
「はあ⁉そりゃあ、こっちのセリフだ!何だよ、男嫌いって!キャラ付けでもしてんのか?」
「そんな訳、無いでしょう!アンタのせいじゃない!」
「は⁉言いがかりも――」
「忘れた訳⁉こっちは、アンタのしょうもない独占欲で、骨まで折ったっていうのに!」
そう口から零れ落ちた言葉は――戻らない。
一瞬で、ざわついた部屋の気配に気づいた時には、私は、自分の失言で地の底まで埋まりたくなってしまった。