大嫌い同士の大恋愛
「なあ――マジで、もう少しだけ、待ってくれねぇか……」

「待つって……」

「あの女と、ちゃんと話す」

 私は、反射的にヤツを見上げる。
 すると、真剣な表情で――真っ直ぐに、私を見つめ返した。

「そしたら、堂々と、片桐班長と戦える」

「物騒ね」

「だから――オレに、最後のチャンスをくれよ」

 今までに見た事の無い、その真っ直ぐな目で見つめられ、私は、ようやく、聖の言っていた意味を理解した気がした。


 ――きっと、本気で向き合うという事は、こうやって、相手の目を真っ直ぐに見て、気持ちを伝えるという事なんだろう――。


 ずっと、私は、江陽のせいで、自分の気持ちを抑え続けていた。
 私が、本気で、ヤツを嫌っていると言っても、家族も周囲も、相手にしてくれなくて。

 ――照れ隠しでしょう。

 ――あんなに、べったりなのに。

 ――じゃあ、何で江陽クンと離れないのよ!!


 どうやっても伝わらなかったのは、きっと、誰もが、本気に捉えていなかったから。


 ――なら、何を言っても、無駄じゃないか――。

 ――私の気持ちを軽く見られているなら、私だって、同じだ。


 無意識に、他人の気持ちを軽く見てしまうのは――そういう思いがあったからなんだろう。


 ――でも――きっと、江陽だけは、最初から、こうやって、真剣にぶつかってきてくれていて――。


 ――私は、それに、目を逸らし続けただけなのだ……。


「羽津紀?」

 私は、江陽を見つめたまま――うなづく。

「……わかったわ」

「……え」

「でも、危ない真似は、やめなさいよ」

 すると、江陽は、目を見開く。

「――っ……ああ‼」

 ヤツは、しっかりとうなづくと、私を抱え上げた。

「きゃあっ⁉」

 フワリと身体が浮く感覚に思わず、しがみつくと、そのまま軽々と――リビングに。

「こ、江陽……?」

「羽津紀、約束だからな」

 そう言うと、江陽は、私をそっと座らせると、軽くキスをする。

「こ――」


「――ケリが着いたら、オレと、結婚前提に付き合ってくれ」


 そう言うと、ヤツは、私の返事も聞かずに、部屋を後にする。

 私は、呆然としながらも――心のどこかで、うれしさを感じてしまっていた――。
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