大嫌い同士の大恋愛
 それから、新製品の企画の話を詰めて行き、片桐さんと二人で昼食を作る。
 今日、彼は、試作品のスパイスを持って来てくれていたので、豚肉の薄切りを焼いて試食。
 まるで、仕事をしているような状況だが、気になるのだからプライベートとしよう。

「あ、コレ、美味しいですね」

「だね。辛いかと思ったけど――万人受けする方だよね」

 二人でテーブルを囲み、和やかに感想を言い合う。
 食の好みが合うのは、やはり、私には、必須条件なのだろうか。
 こうやって、アレコレと話が尽きないのは、男女関係無く、楽しいものだ。
 昼食も終え、再び企画の話が始まる。
 もう、コレは、会議だろう。
 けれど、仕事という感じがしないのは、片桐さんとの距離の近さがあるからなのだろうか。

「――ああ、ゴメンね、羽津紀さん。すっかり、仕事の話になっちゃった」

「いえ、勉強になります」

 そう返すと、彼は、私の向かいから隣に座り直した。
「……か、片桐さん?」
「――じゃあ、こっちの勉強もする?」
「え」
 言うが遅い、軽いキス。
「あ、あの」
 制止も聞かず唇が再び触れると、今度は、長く。
「――嫌?」
 そして、答える隙も無いままに熱い舌が入り込むと、無意識に私は、彼の服を握り締め、自分でも舌を絡めて返す。

 ――もう、完全に、身体が、彼に慣らされている。

 ――それが、嫌なのかといえば、そうではないのだから、困るのだ。

 しばらく、お互いに唾液が交じり合うくらいに、口づけを交わしていると、徐々に息が持たなくなってきた。
 私は、片桐さんの服を引くと、彼は気づいたのか、そっと唇を離す。
「羽津紀さん、大丈夫?」
「……ハ、ハイ……」
 私は、大きく息を吐く。
 けれど、彼に伝い落ちる唾液を舐め取られると、身体が跳ね上がった。
「きゃっ……!」
「じゃあ、もうちょっと、牽制しようかな」
 聞き返す間もなく、片桐さんは、私の髪をかき上げると、首元に吸い付いた。

「――んぁっ……!」

「――コラ、煽らない」

「だ、ってぇ……っ……」

 次々に襲い来る、チクリとした痛みの連続に、どれだけキスマークがつけられたのか、不安になってしまう。
「……コ、コレ……ちゃんと、消えますか……?」
「んー、どうかな?今度、スカーフ買ってあげようか」
「いりませんっ!」
 ようやく解放され、真っ赤になったまま息切れを起こす。
「まだ、終わってないよ?」
「え」
 そう言うが遅い、視界が変わった。
「――ここからも、同意、してくれる?」
「か、片桐さん?」
 真上に見える彼に、どんどん、逃げ道がふさがれていく。

 ――彼といて、楽しいのは、事実。
 ――それが、恋愛感情なのか――まだ、わからないけれど――。

 でも、今は――。

 私は、緩々と首を振る。

「そう、残念」
 片桐さんは、あっさりと身体を起こし、私の腕を掴むと引き起こした。
「でも、キスまでは、OKなんだね」
「――そ、それは……その……」
 指摘され、肩を縮こませてしまう。
「羽津紀さん?」
 わかったようにのぞき込まれ、私は、小さくうなづいた。
「……片桐さんに、教え込まれてしまいました……」
 キスが、気持ち良いものだと。
 ――そして、片桐さんとのキスが、嫌ではないのだと。
 すると、彼は、苦りながら、私を抱き締める。
「……言い方、気をつけて?」
「え?」
「ホント、男、興奮させるの、上手いよ、キミ」
「……片桐さんだけでしょう」
「自覚無いよね」
「そういう性癖ですか」
「否定はしないけど――教えようか?」
「結構です!」
 抱き締められたままでは、いまいち締まらないが、私は、彼を横目でにらんだのだった。
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