大嫌い同士の大恋愛
 食べながら、使われている調味料を話し合ったり、新規企画の話になったりと、話題は尽きない。

「やっぱり、谷川さんの企画は、コストがかかりすぎの気がするんですよ」

「でも、彼女の案は、僕は面白いと思うけどね」

「私も思います。――ただ、現実問題、もう少し削れるんじゃないかと思います」

「キミの言う事ももっともだけどさ、削ったら、コンセプト、ブレないかな」

「そこを、何とか調整していただきたいんです」

 思わずヒートアップしてしまいそうになり、我に返る。
 目の前の片桐さんも、チラリと周囲に視線を向け、苦笑いだ。
 家族連れや、カップルが多い日曜日――大きな買い物バッグを四人掛けのイスに置いた私達は、ともすれば、買い出しに来た夫婦に見えるのかもしれない。
 ――なのに、話題がコレだ。
 席のそばを通って行くカップルが、いぶかし気な視線を送ってきて、二人でバツが悪くなってしまった。
「……ごめん、フードコートで話す話題じゃないね」
「いえ、でも、こういう事は、片桐さん以外に話せないので――」
 そう言いかけ――止まる。


 ――……ああ、そうか。


 ――この人は――私の仕事を、一番理解していてくれて――

 ――立ち位置は同じだったり、正反対だったりするけれど――


 共に、商品を作り上げてきた仲間。
 友達でも、恋人でもなく――。


 ――そう、それは、戦友とでもいうものか。



「――……あ」

「え?」

 不意に出てきた言葉に、我に返る。

「――……いえ……何でもありません」

 唐突に浮かんだ”それ”は、ピッタリと、自分の中のピースにはまった。


 ――最初から、気づけば良かった。


 ――それなら……こんな風に、彼を巻き込んだりせずに済んだのに……。


 無意識に握り締めた手は、不意打ちで、彼の手に包まれていた。
「か、片桐さん?」
「――どうかしたのかな」
「あ、いえ……」
 ――きっと、聡い彼には、勘づかれているのかもしれない。
 一瞬、ごまかそうとしたが、口を閉じる。

 ――本気で向き合うのは、江陽だけではないのだ。

 ――彼にも、ちゃんと――目を見て、自分の口で、言わなければ。


 表面上は和やかにお昼を終えると、帰宅の途についた。
 デート感は、まったく無いのだけれど、これも、デートというのだろうか。
「――羽津紀さん、ひとまず、マンションまで戻るね」
「あ、ハイ」
 すると、車を発進させながら、片桐さんが言うので、うなづいて返す。
 彼は、チラリと私を見やると、ハンドルを右に回し、ショッピングモールの敷地から出た。

「何だか、こんな風に買い出しするとか、夫婦みたいだね」

 少しだけ上機嫌になった彼がそう言って、国道を走り出す。
 ――今は、違う、よね。
 黙り込んでしまった私は、うなづく事も、首を振る事もできず、うつむくしかできなかった。
 彼は、その態度に何かを感じたのか、それ以降、ポツポツと世間話を振るだけだった。
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