大嫌い同士の大恋愛
しばらく、自己満足のような後悔の涙を流していると、外からバタバタと音がして、私は、急いで手で拭い去る。
こんな顔、聖にも、江陽にも見せられないが――何かあったら、事だ。
恐る恐るドアを開けて顔を出すと、バタン、と、江陽の部屋のドアが閉まる音が聞こえる。
――何か、あった?
それと同時に、立岩さんの姿がよぎる。
謹慎中だけれど、引きこもりになっている訳ではない。
会社に来ないだけで、外出はできるのだ。
不安がよぎり、部屋から出る。
外の様子をうかがいながら、江陽の部屋のインターフォンを鳴らすと、すぐに中から物音がして、ドアが開けられた。
「う、羽津紀?」
「――な、何か、あったの……?バタついてるみたいだけど……」
「あ、ああ。いや、悪い、ちょっと、急いでる」
「そ、そう」
邪魔になるなら、帰ろう。
そう思った途端、玄関に引きずり込まれる。
「ちょっ……江陽⁉」
「――何が、あった」
「は?」
言うが遅い、キツく抱き締められ、私は、硬直する。
「……泣き跡、ついてる」
「べっ……別にっ……」
「片桐班長と、何かあったのかよ」
図星を差され、身体は反射で固まってしまう。
江陽は、私をのぞき込むと、眉を寄せた。
「――オレには、言えねぇのかよ」
「……っ……」
関係無い、と、突っぱねる事など、簡単だ。
――今まで、ずっと、そうやってきた。
――けれど、もう、それでは済まされないのだ。
私は、絞り出すように、口にした。
「……か、片桐さんと……正式、に……お別れ、した……」
「え」
江陽は、勢いよく私を引きはがすと、動揺を隠さずに見つめる。
「……別れた……?」
たった数十分前の事。
なのに、その言葉で、過去になったのだと実感してしまい、胸が痛い。
「羽津紀、何があった。――原因があったんだろ」
「ち、違うっ……!」
「でも」
「――急に……気づいちゃったのよ」
「え」
私は、顔を上げ、江陽を見上げる。
「――……私にとっては――片桐さんは、恋人、じゃないの……」
「――どういう事だよ」
江陽は、答えを待つが、私は、首を振った。
――これは、私と、片桐さんの間だけのもの。
いくら、江陽が知りたがろうが、教える事はできない。
「悪いわね。――でも、何でもかんでも言うのが、正解じゃないわ」
「オレは、お前の事なら、何でも知りてぇ」
――こちらが恥ずかしくなるようなコトを、どうして、平気で言えるのよ、コイツは!
引きつりながらヤツをにらむけれど、熱を持った視線を向けられ、固まってしまう。
けれど、その圧に負ける訳にはいかない。
「……江陽、アンタ、そういうの世間一般じゃ、引かれるわよ」
大きく息を吐きながら、ヤツを諭そうとするが、
「オレは、オレとお前の話をしてるんだよ。世間がどうとかじゃねぇ」
そう、バッサリと切り捨てられる。
どうやら、逆効果だったようだ。
「――……あのねぇ……私だって、引くわよ」
昔のように、まとわりついてくる気配を感じ、あきれてしまう。
「必要以上に束縛されるのは、嫌だわ」
「……じ、じゃあ……我慢する……」
案外素直にうなづくので、私は、江陽をまじまじと見る。
ヤツは、気まずそうにしてはいるが、視線を逸らす事は無い。
それは――きっと、昔から、だったのかもしれない。
「……良くできました」
私は、苦笑いを浮かべ、背伸びをすると、ヤツの頭をぐしゃぐしゃと撫で回したのだった。
こんな顔、聖にも、江陽にも見せられないが――何かあったら、事だ。
恐る恐るドアを開けて顔を出すと、バタン、と、江陽の部屋のドアが閉まる音が聞こえる。
――何か、あった?
それと同時に、立岩さんの姿がよぎる。
謹慎中だけれど、引きこもりになっている訳ではない。
会社に来ないだけで、外出はできるのだ。
不安がよぎり、部屋から出る。
外の様子をうかがいながら、江陽の部屋のインターフォンを鳴らすと、すぐに中から物音がして、ドアが開けられた。
「う、羽津紀?」
「――な、何か、あったの……?バタついてるみたいだけど……」
「あ、ああ。いや、悪い、ちょっと、急いでる」
「そ、そう」
邪魔になるなら、帰ろう。
そう思った途端、玄関に引きずり込まれる。
「ちょっ……江陽⁉」
「――何が、あった」
「は?」
言うが遅い、キツく抱き締められ、私は、硬直する。
「……泣き跡、ついてる」
「べっ……別にっ……」
「片桐班長と、何かあったのかよ」
図星を差され、身体は反射で固まってしまう。
江陽は、私をのぞき込むと、眉を寄せた。
「――オレには、言えねぇのかよ」
「……っ……」
関係無い、と、突っぱねる事など、簡単だ。
――今まで、ずっと、そうやってきた。
――けれど、もう、それでは済まされないのだ。
私は、絞り出すように、口にした。
「……か、片桐さんと……正式、に……お別れ、した……」
「え」
江陽は、勢いよく私を引きはがすと、動揺を隠さずに見つめる。
「……別れた……?」
たった数十分前の事。
なのに、その言葉で、過去になったのだと実感してしまい、胸が痛い。
「羽津紀、何があった。――原因があったんだろ」
「ち、違うっ……!」
「でも」
「――急に……気づいちゃったのよ」
「え」
私は、顔を上げ、江陽を見上げる。
「――……私にとっては――片桐さんは、恋人、じゃないの……」
「――どういう事だよ」
江陽は、答えを待つが、私は、首を振った。
――これは、私と、片桐さんの間だけのもの。
いくら、江陽が知りたがろうが、教える事はできない。
「悪いわね。――でも、何でもかんでも言うのが、正解じゃないわ」
「オレは、お前の事なら、何でも知りてぇ」
――こちらが恥ずかしくなるようなコトを、どうして、平気で言えるのよ、コイツは!
引きつりながらヤツをにらむけれど、熱を持った視線を向けられ、固まってしまう。
けれど、その圧に負ける訳にはいかない。
「……江陽、アンタ、そういうの世間一般じゃ、引かれるわよ」
大きく息を吐きながら、ヤツを諭そうとするが、
「オレは、オレとお前の話をしてるんだよ。世間がどうとかじゃねぇ」
そう、バッサリと切り捨てられる。
どうやら、逆効果だったようだ。
「――……あのねぇ……私だって、引くわよ」
昔のように、まとわりついてくる気配を感じ、あきれてしまう。
「必要以上に束縛されるのは、嫌だわ」
「……じ、じゃあ……我慢する……」
案外素直にうなづくので、私は、江陽をまじまじと見る。
ヤツは、気まずそうにしてはいるが、視線を逸らす事は無い。
それは――きっと、昔から、だったのかもしれない。
「……良くできました」
私は、苦笑いを浮かべ、背伸びをすると、ヤツの頭をぐしゃぐしゃと撫で回したのだった。