大嫌い同士の大恋愛
「――あ!」
落ち着きを取り戻すと、私は、食材を置き去りにしてきた事を思い出し、慌てて踵を返す。
「羽津紀?」
「アンタのせいで、生鮮食品、放置してきちゃったじゃない!」
「ハァ⁉」
いぶかし気に返すヤツを見ず、私は玄関のドアを開ける。
「何だよ、そりゃ」
「良いから!アンタは、その、弁護士の人のところに急ぎなさいな!」
「……わかったよ」
肩越しに返事を聞くと、すぐに、自分の部屋にダッシュ。
キッチンに置かれた買い物バッグは、全部保冷仕様となっていて、更には、保冷用の氷も入れていたので、まだ、傷むまではいかなかったようで、一安心。
――時間かかるから、生鮮品は、最後の方にしようね。
そう言ってくれた片桐さんを思い出すと、胸がキツく締め付けられる。
――でも。
――もう、戻れないんだ。
自分の中で、彼の位置づけが決まった以上――振り回す訳にも、嘘をつき続ける訳にもいかない。
それに、彼なら――そんな私の気持ちに、きっと、気づく。
気づいて――そして、柔らかく、包んで――曖昧に溶かしてしまうんだろう。
――このままで良いのだと。
私は、食材を作業台に置く手を止める。
ポタポタと落ちていく涙は、止まらない。
――でも、それは――お互いに、本当の意味で、幸せにはなれない。
それだけは、私にも、わかる。
「――……っ……ぅ……」
嗚咽を我慢し、涙を雑に拭うと、ルーティンを再開させる。
こんな事になる前に戻るように――。
――男なんて、大嫌い。
そんな私に、戻りたかった。
徐々に日も落ち、部屋の中も薄暗くなるが、明かりをつける気分にもなれず、そのままベッドに倒れ込む。
今日は、片桐さんと一緒だから、夕飯はパスさせてもらうと聖には伝えてあるので、どうにかするだろう。
――ああ、食欲も無くなるなんて、重症だわ……。
すると、そばに投げっぱなしにしていたスマホが、一瞬だけ振動する。
私は、億劫になるが、緊急だと困るので、横になったまま操作し――固まった。
――江陽クンは、返してもらったから。
一瞬で脳内がクリアになる。
反射のように起き上がると、もう一度、メッセージ画面を確認するが――差出人は、ランダムな英数字の羅列だけ。
けれど――これは。
私は、ベッドから飛び降り、そのまま部屋を飛び出すと、隣の江陽の部屋のインターフォンを鳴らすが、中に人の気配は無い。
――……江陽!
すぐに聖の部屋に向かい、インターフォンを鳴らす。
『あれぇ……羽津紀、帰ってたのー?』
「聖、江陽がっ……」
『え』
私のあせった気配を感じ、聖は、バタバタと玄関のドアを開ける。
「羽津紀、江陽クンが、どうしたの?」
「――今、こんなメッセージが……」
そう言って、持っていたスマホの画面を彼女に見せる。
「……コレ……立岩さん、だよね……」
「――ええ。……たぶん、私の番号も、調べていたんでしょう」
「でも、どういうコト?江陽クン、今、いないの?」
私は、聖にうなづいて返す。
「インターフォンを鳴らしたけれど、気配は無かったわ」
「どこに行ったとかは……」
「――弁護士の人に会って来るって、言って――出て行ったの」
そのまま、先ほど江陽が言っていた内容を伝えると、聖は、眉を寄せた。
「立岩さん、どこかで待ち伏せしてたのかも……」
「――……謹慎中なのに?」
「別に、引きこもりになってる訳じゃないでしょ?」
「……それもそうね……」
「でも、実力行使にはならないよね。体格差があり過ぎるもん」
私の頭の中は、聖の言葉をスルーし、どんどん、悪い方向に考えが向かっていく。
――何せ、江陽を手に入れるために、私の首を絞めるような女だ。何をするのかなんて、わからない。
聖は、私の両肩を掴む。
「羽津紀、しっかりしよ?まだ、立岩さんが、何かしたって決まったワケじゃないしさ……」
「でも」
「とにかく、今は、江陽クンが、どこにいるか確認しなきゃ」
私は、真っ青なまま、素直にうなづいた。
落ち着きを取り戻すと、私は、食材を置き去りにしてきた事を思い出し、慌てて踵を返す。
「羽津紀?」
「アンタのせいで、生鮮食品、放置してきちゃったじゃない!」
「ハァ⁉」
いぶかし気に返すヤツを見ず、私は玄関のドアを開ける。
「何だよ、そりゃ」
「良いから!アンタは、その、弁護士の人のところに急ぎなさいな!」
「……わかったよ」
肩越しに返事を聞くと、すぐに、自分の部屋にダッシュ。
キッチンに置かれた買い物バッグは、全部保冷仕様となっていて、更には、保冷用の氷も入れていたので、まだ、傷むまではいかなかったようで、一安心。
――時間かかるから、生鮮品は、最後の方にしようね。
そう言ってくれた片桐さんを思い出すと、胸がキツく締め付けられる。
――でも。
――もう、戻れないんだ。
自分の中で、彼の位置づけが決まった以上――振り回す訳にも、嘘をつき続ける訳にもいかない。
それに、彼なら――そんな私の気持ちに、きっと、気づく。
気づいて――そして、柔らかく、包んで――曖昧に溶かしてしまうんだろう。
――このままで良いのだと。
私は、食材を作業台に置く手を止める。
ポタポタと落ちていく涙は、止まらない。
――でも、それは――お互いに、本当の意味で、幸せにはなれない。
それだけは、私にも、わかる。
「――……っ……ぅ……」
嗚咽を我慢し、涙を雑に拭うと、ルーティンを再開させる。
こんな事になる前に戻るように――。
――男なんて、大嫌い。
そんな私に、戻りたかった。
徐々に日も落ち、部屋の中も薄暗くなるが、明かりをつける気分にもなれず、そのままベッドに倒れ込む。
今日は、片桐さんと一緒だから、夕飯はパスさせてもらうと聖には伝えてあるので、どうにかするだろう。
――ああ、食欲も無くなるなんて、重症だわ……。
すると、そばに投げっぱなしにしていたスマホが、一瞬だけ振動する。
私は、億劫になるが、緊急だと困るので、横になったまま操作し――固まった。
――江陽クンは、返してもらったから。
一瞬で脳内がクリアになる。
反射のように起き上がると、もう一度、メッセージ画面を確認するが――差出人は、ランダムな英数字の羅列だけ。
けれど――これは。
私は、ベッドから飛び降り、そのまま部屋を飛び出すと、隣の江陽の部屋のインターフォンを鳴らすが、中に人の気配は無い。
――……江陽!
すぐに聖の部屋に向かい、インターフォンを鳴らす。
『あれぇ……羽津紀、帰ってたのー?』
「聖、江陽がっ……」
『え』
私のあせった気配を感じ、聖は、バタバタと玄関のドアを開ける。
「羽津紀、江陽クンが、どうしたの?」
「――今、こんなメッセージが……」
そう言って、持っていたスマホの画面を彼女に見せる。
「……コレ……立岩さん、だよね……」
「――ええ。……たぶん、私の番号も、調べていたんでしょう」
「でも、どういうコト?江陽クン、今、いないの?」
私は、聖にうなづいて返す。
「インターフォンを鳴らしたけれど、気配は無かったわ」
「どこに行ったとかは……」
「――弁護士の人に会って来るって、言って――出て行ったの」
そのまま、先ほど江陽が言っていた内容を伝えると、聖は、眉を寄せた。
「立岩さん、どこかで待ち伏せしてたのかも……」
「――……謹慎中なのに?」
「別に、引きこもりになってる訳じゃないでしょ?」
「……それもそうね……」
「でも、実力行使にはならないよね。体格差があり過ぎるもん」
私の頭の中は、聖の言葉をスルーし、どんどん、悪い方向に考えが向かっていく。
――何せ、江陽を手に入れるために、私の首を絞めるような女だ。何をするのかなんて、わからない。
聖は、私の両肩を掴む。
「羽津紀、しっかりしよ?まだ、立岩さんが、何かしたって決まったワケじゃないしさ……」
「でも」
「とにかく、今は、江陽クンが、どこにいるか確認しなきゃ」
私は、真っ青なまま、素直にうなづいた。