大嫌い同士の大恋愛
 ひとまず、マンションの周囲を見回すが、江陽らしき人影は無い。
「――羽津紀、心当たりはあるの?」
 聖に尋ねられ、私は首を振って返した。
「……わからないわ……」
「うーん。羽津紀がわからないとなると、アタシには、予想もつかないなぁ……」
 眉を下げる聖に、同じように眉を下げる。
「でも、コレ、見ようによっては、誘拐レベル?」
「……警察に行く?」
「無理だよー。……あの人達は、事件が起こってからじゃないと、動かないし、動けないんだよ?事件だって証拠が無きゃ……」
 マンションの前で立ち尽くしていると、チラチラと通行人から視線を向けられるが、聖は、それを平然と受け流し、顎に手を当てて考え込んでいる。
 何をどうしたら良いのかわからず、あせりだけが募っていくが、どうにもできない。
 ――それが、悔しい。
 江陽が危険かもしれないのに、何もできない自分が――悔しい。
 そう思う事自体、アイツが私の中で特別になっているような気がして、悔しいけれど――でも、こんな時に、意地を張ってもいられないのだ。

 ――……一体、誰に聞けば……。

 私は、自分のスマホを見つめる。

 ――あ。

「羽津紀?」
 黙り込んだ私を、聖がいぶかし気に呼ぶ。
「……聖……スマホのGPSって……調べられるもの……?」
「えーっと……調べられない事もない、かな」
「難しい?」
 私の問いかけに、彼女は、少しの間考え込むが、何かを思い出したように、自分のスマホを取り出した。
「楠川クン、共有してないかな」
「――え」
「友達同士で、位置情報共有できるヤツあるんだけど――どうかな……」
 そう言いながら、電話をかける。
 辛抱強く待ちながら、十コールを超えた辺りで、彼が出たようだ。
 聖は、できるだけ簡単に事情を話すと、尋ねた。
「――できそう?」
 私は、邪魔にならないように、小声で彼女に言う。
 それにうなづきながら、通話は続けられ、
「――……そう、ありがと。じゃあ、確認できたら、位置情報とメッセージ送ってくれる?」
 最終的に、楠川さんが確認できそうだとの事だった。
「羽津紀、少し待ってて。楠川クン、昔、遊び半分でアプリ入れた時、江陽クンの位置情報も共有してたみたい」
「……ホント?」

 ――ああ、もう、心臓が痛い。

 ――江陽のバカ。こんなに心配させないでよ。

 破裂しそうな胸を押さえながら、私は聖とともに、楠川さんからの連絡を待った。
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