大嫌い同士の大恋愛
 数分すると、聖のスマホが振動した。
 楠川さんからのメッセージだ。

「返事来たよ、羽津紀――」

 だが、聖は言葉を切る。

「聖?」

「――……え、待って、羽津紀。ココ、会社だよっ……!!」

 私は、反射的に会社の方向を見やる。
「……と、とにかく、行くわ!」
「あ、アタシも行く!」
 聖と二人、できる限りダッシュ。
 正門は鍵がかかっているけれど、社員通用口は、社員コードでも、ロックが解除できる。
 私達は中に入ると、階段を駆け上がった。
「聖、楠川さんは、何階とかは――」
「そこまでは、無理だよー!」
 それもそうか、と、納得しながら、一階からフロアすべてを確認して回る。

「羽津紀、いた?!」

 聖の問いかけに、首を振って返し、階段を上る。
 それを――四回。
 五階の企画課に到着すると、中に飛び込む――が、人影は見当たらない。
「羽津紀、後は、会議室と……」
「社長室ね」
 部屋をまんべんなく見回すが、やはり、気配は無い。
 二人で企画課を出ると、再び階段を上ろうとして――私は、足を止めた。

「羽津紀?」

 チラリと聖を見やり――サンプル室を見やる。
 まだ、ここは見ていない。
 私は、ドアノブに手をかけると、それは、スッ、と、呆気なく開く。
 そして、恐る恐るドアを開け――硬直。


「――……こう、よ、う……?」


 サンプル室のメタルラックに、寄りかかるようにして座っている。
 ――そして、その隣に、立岩さんが、目を閉じて抱き着いて――


 ――……違う!!!!


「羽津紀っ!」

「聖っ、救急車!!!!」

 お互いにすべき事を、一瞬で悟る。

 江陽と立岩さん――座って、眠っている彼等の周りには――零れた水と、空の薬のシート。
 その量に、心臓が冷える。


「ハイッ!――たぶん、大量の睡眠薬です!」


 聖の声が遠い。


 ――”無理心中”。


 そんな言葉が、頭を回る。

 私は、震えながら江陽の身体に触れる。

「う、羽津紀」

 ――そして、立岩さんにも触れ、大きく息を吐いた。

「……まだ、二人とも体温はあるわ……」

「そ、そう……」

 止まらない震えに気づき、聖が、私を抱き締める。
「……大丈夫だよ。……救急車、すぐ来るよ」
「……ええ……」
「――江陽クン、そんなカンタンに、死んだりしないよ」
「――……わかってるっ……!」

 ――わかってるけど、怖いのだ。

 ――……このまま――何も、コイツに確かなものを伝える事もできないまま――別れるなんて……。

「――……江陽……」

 私は、そっと聖から離れ、江陽のそばにヒザをついた。
 そして、その手を、両手で握り締める。
 そこに、水滴がポタポタと落ちていった。

「――……江陽っ……!!」

 ――私、アンタに言いたい事、たくさんあるんだからね。


 ――だから――。


 ――……お願いだから、死なないで。
 
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