大嫌い同士の大恋愛
3.同情の余地も無し
 その後、聖と二人でマンションまで帰宅する。
「――じゃあ、また後でねー」
「ハイハイ」
 二日に一回は、二人でご飯を作って食べている私達。
 今日は、その一回に当たっていた。
 食材は私が用意。聖と費用は折半だ。
 こんな風になっているのも、新人の頃、仕事が忙しくても、どうにか食事だけは、と、頑張っていた私とは対照的に、彼女は、毎日、食べているのかいないのか、という状態。
 いつもお昼をコンビニに買いに行っているのを見かねて尋ねれば、朝は、抜くかジュースくらい。
 昼は、かろうじてコンビニで調達。
 夜に至っては、合コンで食事にするか、無い日は食べずに終わるらしい。
 三食欠かさずが通常仕様だった私には、信じられない話で、真っ青になってしまったのを覚えている。

 そして、二か月ほど経ったある日――聖は、仕事中にぶっ倒れてしまったのだ。

 完全なる、栄養失調。

 私は、隣の部屋のよしみで、彼女の世話をしている時に、不意に思い立ち提案した。

 ――作るのが面倒なだけなら、私が作ったもの、一緒に食べる?

 目を丸くした彼女は、次の瞬間、ガバリと起き上がり、私の両手を握り締めた。

 ――ホントに⁉

 話を聞けば、元々、自分の美を追求するあまり、食事を抜くのは当たり前、補助食品を口にする時は、まだマシな方。
 合コンの前日から、準備に余念がないが、そこに、食べる事は入っていなかった。

 ――また倒れられたら、たまったモンじゃないのよ。

 あきれながら言う私を、聖は、キラキラした目で見つめ、その美しい顔を最大限生かした微笑みを見せたのだった。


 そんな物思いに更けながらも、手は止めず。
 あらかた作り終えた頃に、インターフォンが鳴った。
 私は、軽く手を拭きながら画面を見に行き――硬直。

 映っているのは、聖ではなく――江陽だ。

「……お帰りください」

 私は、淡々と、それだけ告げる。

『ちょっ、まっ……』

 そして、バッサリと通話を切った途端、ドアが叩かれた。
 私は、ギョッとすると、ダッシュで玄関に行き、すぐに開ける。

「なっ……何なのよ、一体!」

「うーちゃん、頼む、匿ってくれっ!」

「はぁ⁉」

 事情もわからず顔をしかめると、江陽は、問答無用とばかりに部屋に入り込んできた。
「ちょっ……!出て行きなさいよ!」
「匿ってくれって言ってんだろ!」
「嫌よ!出て行け、変質者‼」
「誰が、変質者だ!」
 終わらない言い合いを玄関先でしていると、不意に、きゃあきゃあと、女性の声が聞こえてきた。

 ――は?

「え、こっちじゃない?」
「インターフォン鳴らしてみれば?」
 女性二人の会話が、ドアの外から聞こえる。
 チラリと江陽を見上げると、真っ青な顔をして、口元を手で覆っていた。
「三ノ宮くんー?」
 甘ったるい声が響き渡る。
 私は、それを聞き、眉を寄せた。

 ――まさか、ストーカー?

 それにしては、あっけらかんとしている。
 配属初日で、追っかけファンでもできたか。
 私が目で問いかけると、江陽は、必死で首を横に振り続ける。

 ――けれど、この状況で、私に何をしろというのだ。

 そもそも、勝手に部屋に入って来た時点で、腹が立っているのに。
 私はドアノブに手を伸ばす。

 すると、その瞬間、引き寄せられ、包まれるように抱き締められる感触。

 ――……は??

 江陽に抗議しようと顔を上げる。
 そして、口を開こうとしたら、その広い胸に顔を押し付けられ、ふさがれた。
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