大嫌い同士の大恋愛
「――……羽津紀……?」

「……もう……何やってんのよ……アンタはっ!!……」

「え?」

 キョトンとしたヤツは、私をそっと離すと、自分の周囲を見て眉を寄せた。
「……何だ、こりゃ……」
「……アンタ、覚えてないの?――……立岩さんに……」
 事情を覚えていないのかと思い、説明しようとした途端、江陽は、表情を固くし――その顔色は、真っ青を通り越して、真っ白になっていく。
「こ、江陽」
 ガクガクと震え出すヤツは、私にすがるように抱き着いた。
「羽津紀……無事、か……」
「え、ええ。……私より、アンタでしょ」
「――……オレより、お前だ」
 こんな状況でも言い合いが始まりそうで――その内容は、おかしなものだが――私は、江陽に抱き締められたままヤツを見た。
「……一体、何があったのよ……」
「――……あの女……今度こそ、お前を殺すって――……」
「え」
「だから――……止めようとしたら……」

 ポツリ、ポツリ、と、断片的に記憶をたどりながら江陽は話し出した。

 弁護士の先生に会いに行こうとマンションを出てすぐに、立岩さんから着信があったそうだ。
 出ないでいると、メッセージで、今度こそ、私を殺す。
 止めたいなら、会社に来い、と。
 それだけで、江陽が従うには、充分だった。
 そして、サンプル室に来るように指示があって――入った途端、頭を何かで殴られた衝撃があったいう事だ。

 江陽は、私が生きているのを確かめるように、胸に顔をうずめる。
 ――いつもなら、すぐに突き飛ばすのに。
 
「――……ちゃんと、生きてるわよ」

「……ああ。……良かった――……」

 心底安心したように、江陽はつぶやく。
「……良かったのは、アンタよ」
「何がだよ」
「……アンタのそばで、立岩さん、薬を大量に飲んで、意識を失っていたのよ」
「え」
 青白い顔色のまま、江陽は私を見上げる。
「――どう、いう……」
「――……私達が見つけた時、無理心中しているように見えたわよ」
「な……」
 もしかしたら、彼女は、本当に江陽を殺して――自分も死ぬつもりだったのかもしれない。
 私は、立岩さんからメッセージをもらった事、聖や楠川さんと協力して、江陽を見つけた事――それからのいろいろを、ゆっくりとヤツに話した。
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