大嫌い同士の大恋愛
31.私も、大好きよ
それから、江陽が目覚めた事を亜澄さんに電話で伝えると、まだ、病院から出ていなかったらしく、こちらが驚くほどの速さで、三ノ宮社長とともに、すぐに病室に駆け付けてきた。
勢いよく入ってきた亜澄さんは、江陽に抱き着き泣き崩れ、三ノ宮社長は、後方でホッとしたような表情を見せていた。
――……やっぱり、心配だったのだろう。
江陽が言うような確執は、きっと、彼の本意ではないはずだ。
これを機会に、少しは距離が縮まれば良いのだけれど――。
「羽津紀ちゃん、本当に、ありがとうね」
すると、亜澄さんが、少し距離を取って様子をうかがっていた私を振り返ると、こちらにやって来る。
そして、深々と頭を下げた。
「いえ、私は、何も……」
恐縮しながらも、視線をさまよわせてしまう。
そんな風に感謝されるほどの事はしていない。
――何をどうすれば良いのかもわからず、結局、江陽のそばについているしかできなかったのだから。
けれど、彼女は、私の両手を自分のそれで握り締めると、首を振った。
「いいえ、羽津紀ちゃんがついていてくれて、心強かったのよ。――あんなに、江陽の事を心配してくれるなんて……」
「あ、亜澄さん!」
私は、慌てて彼女の口を塞ぎたかったが、そんな事をできるはずもなく。
そんな私の動揺に気づかない彼女は、更に続けた。
「ねえ、羽津紀ちゃん、こんな時に何だけど……やっぱり、江陽との結婚、考えてみてくれないかしら」
「え」
「おい、母さん!」
その言葉に、思わず固まってしまう。
江陽は、慌ててベッドから下りようとするが、三ノ宮社長に止められた。
「――離せよ」
「目が覚めたばかりだろうが。大人しくしておくんだ」
「うるせぇな。――大体、何でテメェが来るんだよ。会社はどうした」
「ちょっと、江陽!口の利き方に気をつけなさい!」
敵意丸出しのヤツを、私は、思わずたしなめてしまう。
「羽津紀」
「……三ノ宮社長は、亜澄さんと一緒に、ずっと、アンタの様子を心配して、毎日来てくださってたのよ」
「……ンなの、世間体が気になるだけだろ」
「江陽!」
だが、三ノ宮社長は、あきらめた様に笑うだけだ。
頑なになっていくヤツに、二人の間にある溝の深さを感じてしまう。
――けれど。
「羽津紀さん、お気になさらず。――江陽には、何を言ったところで、今さらですので」
「羽津紀、こんなヤツ、気にするコト無ぇからな」
そう言った江陽の視線は――先程から、ずっと、あちらこちらを、さまよっている。
私は、ヤツの前に立つと、その両頬を、思い切り引っ張った。
「痛っ……⁉」
「う、羽津紀ちゃん?」
ギョッとする三ノ宮夫妻をよそに、私は、江陽を睨みつけた。
「アンタ、本心じゃないの、バレバレよ!いい加減、素直になりなさい!」
「……なっ……」
「羽津紀さん?」
不審気に見られるが、知った事ではない。
私は、三ノ宮夫妻を振り返り、続けた。
「お二人は、こ、江陽……さ、ん――」
言い慣れない”さん”付けに、噛みそうになる。
――ああ、もう、構うものか。どうせ、本人には呼び捨てなのだ。
それに、これから先、取り繕うのも面倒。
私は、開き直って続ける。
「江陽のクセも、わかりませんか」
「「え?」」
その問いかけに、目を丸くして聞き返す夫妻を見て、江陽の頑なさの原因が、何となくわかった気がした。
「――……部外者が言う事ではないと思いますが……自分の子供のクセすら気づけないなんて、絶対に、お互いの意思疎通が図れていないんじゃないですか」
「――羽津紀」
私の言葉に、全員が黙り込む。
おそらく、それは、もう、とっくに気づいていて――けれど、目を逸らし続けた事なんだろう。
「――……すみません、出過ぎた事を。でも、こうやって江陽を心配しているのなら、そろそろちゃんと向き合ってみても良いのではないでしょうか。――江陽が、昔、ずっと、私にべったりだったのは、淋しかったのもあるのではないかと思うんです」
――……あれだけ、幼い頃、私について回っていたのは――好きだったというのとは別に、何をしても拒否しなかったのも理由だったのかもしれない。
……まあ、私が爆発してからは、意地になっていたのもあるかもしれないが。
「羽津紀」
「――別に、今のアンタがそうだとは言ってないわ。――……気持ちは、もう、疑ってない」
「――……そう、か」
今の今まで、江陽と向き合えなかった私が言う事でもないだろうが――でも、向き合ってわかった事だってある。
それは、恋愛関係だけではない。
――親子だって――どんな関係だって、そうなのかもしれないのだ。
勢いよく入ってきた亜澄さんは、江陽に抱き着き泣き崩れ、三ノ宮社長は、後方でホッとしたような表情を見せていた。
――……やっぱり、心配だったのだろう。
江陽が言うような確執は、きっと、彼の本意ではないはずだ。
これを機会に、少しは距離が縮まれば良いのだけれど――。
「羽津紀ちゃん、本当に、ありがとうね」
すると、亜澄さんが、少し距離を取って様子をうかがっていた私を振り返ると、こちらにやって来る。
そして、深々と頭を下げた。
「いえ、私は、何も……」
恐縮しながらも、視線をさまよわせてしまう。
そんな風に感謝されるほどの事はしていない。
――何をどうすれば良いのかもわからず、結局、江陽のそばについているしかできなかったのだから。
けれど、彼女は、私の両手を自分のそれで握り締めると、首を振った。
「いいえ、羽津紀ちゃんがついていてくれて、心強かったのよ。――あんなに、江陽の事を心配してくれるなんて……」
「あ、亜澄さん!」
私は、慌てて彼女の口を塞ぎたかったが、そんな事をできるはずもなく。
そんな私の動揺に気づかない彼女は、更に続けた。
「ねえ、羽津紀ちゃん、こんな時に何だけど……やっぱり、江陽との結婚、考えてみてくれないかしら」
「え」
「おい、母さん!」
その言葉に、思わず固まってしまう。
江陽は、慌ててベッドから下りようとするが、三ノ宮社長に止められた。
「――離せよ」
「目が覚めたばかりだろうが。大人しくしておくんだ」
「うるせぇな。――大体、何でテメェが来るんだよ。会社はどうした」
「ちょっと、江陽!口の利き方に気をつけなさい!」
敵意丸出しのヤツを、私は、思わずたしなめてしまう。
「羽津紀」
「……三ノ宮社長は、亜澄さんと一緒に、ずっと、アンタの様子を心配して、毎日来てくださってたのよ」
「……ンなの、世間体が気になるだけだろ」
「江陽!」
だが、三ノ宮社長は、あきらめた様に笑うだけだ。
頑なになっていくヤツに、二人の間にある溝の深さを感じてしまう。
――けれど。
「羽津紀さん、お気になさらず。――江陽には、何を言ったところで、今さらですので」
「羽津紀、こんなヤツ、気にするコト無ぇからな」
そう言った江陽の視線は――先程から、ずっと、あちらこちらを、さまよっている。
私は、ヤツの前に立つと、その両頬を、思い切り引っ張った。
「痛っ……⁉」
「う、羽津紀ちゃん?」
ギョッとする三ノ宮夫妻をよそに、私は、江陽を睨みつけた。
「アンタ、本心じゃないの、バレバレよ!いい加減、素直になりなさい!」
「……なっ……」
「羽津紀さん?」
不審気に見られるが、知った事ではない。
私は、三ノ宮夫妻を振り返り、続けた。
「お二人は、こ、江陽……さ、ん――」
言い慣れない”さん”付けに、噛みそうになる。
――ああ、もう、構うものか。どうせ、本人には呼び捨てなのだ。
それに、これから先、取り繕うのも面倒。
私は、開き直って続ける。
「江陽のクセも、わかりませんか」
「「え?」」
その問いかけに、目を丸くして聞き返す夫妻を見て、江陽の頑なさの原因が、何となくわかった気がした。
「――……部外者が言う事ではないと思いますが……自分の子供のクセすら気づけないなんて、絶対に、お互いの意思疎通が図れていないんじゃないですか」
「――羽津紀」
私の言葉に、全員が黙り込む。
おそらく、それは、もう、とっくに気づいていて――けれど、目を逸らし続けた事なんだろう。
「――……すみません、出過ぎた事を。でも、こうやって江陽を心配しているのなら、そろそろちゃんと向き合ってみても良いのではないでしょうか。――江陽が、昔、ずっと、私にべったりだったのは、淋しかったのもあるのではないかと思うんです」
――……あれだけ、幼い頃、私について回っていたのは――好きだったというのとは別に、何をしても拒否しなかったのも理由だったのかもしれない。
……まあ、私が爆発してからは、意地になっていたのもあるかもしれないが。
「羽津紀」
「――別に、今のアンタがそうだとは言ってないわ。――……気持ちは、もう、疑ってない」
「――……そう、か」
今の今まで、江陽と向き合えなかった私が言う事でもないだろうが――でも、向き合ってわかった事だってある。
それは、恋愛関係だけではない。
――親子だって――どんな関係だって、そうなのかもしれないのだ。