大嫌い同士の大恋愛
言うだけ言った私は、沈黙が気まずくなり、そろそろと帰り支度をし始める。
今日まで、聖が持って来てくれたいろいろが、旅行用の大きなバッグに入っているのだ。
それを持ち上げると、江陽がベッドに座りながら尋ねてきた。
「羽津紀、どこ行くんだよ」
「……どこって……部屋に帰るわよ」
「何でだよ。ここにいれば良いだろ」
徐々に、ゴネ始める気配を感じ、私は眉を寄せ、諭すように続ける。
「不本意な状況とはいえ、せっかく、家族が揃う機会ができたんだから、部外者は外すわよ」
「部外者じゃねぇだろ」
「江陽」
――そう言ってもらえるのは……まあ、うれしい。
……けれど、今は、私の出る幕じゃない。
なのに、ヤツは、そんな思いをスルーし、あっさりと言った。
「どうせ、身内になるんだから、お前もいろよ」
「こっ……‼」
あまりにあっさりと言われ、私も、三ノ宮夫妻も固まる。
「ち、ち、ちょっと、江陽‼」
「江陽、どういう事⁉羽津紀ちゃん、お付き合いしていたの?!」
すると、亜澄さんは我に返り、慌てる私と、平然としている江陽を交互に見ながら、問い詰めてきた。
「い、いえ、そういう訳では……」
「これからだけどよ、時間の問題だからな」
――ああ、もう!
――物事には、順序というものがあるでしょうに!
交際自体がこれからだというのに、何で、全部すっ飛ばすのよ、アンタは!
すると、動揺で言葉が続かない私に、三ノ宮社長は申し訳無さそうに尋ねた。
「本当ですか、羽津紀さん。息子の勝手な妄想ではないんですね?」
「え、い、いえ、あの」
「ンだと!」
今ばかりは、憤る江陽に同情してしまう。
――さすがに、その言い方は無いんじゃ……。
だが、彼は、若干あきれたように江陽を見やると、私に言った。
「息子は昔から、口を開けば、あなたの事ばかりで――少々、不憫というか……こちらが心配になる程でしたので……」
「……は……はあ……」
――いや、どう反応すれば良いのよ!
どんどん顔どころか、全身が熱を持っていく感覚。
――江陽、後で覚えてなさい‼
私は、うつむくと、おずおずとうなづいた。
「……えっと……お、お付き合い、の、予定……は、あります……」
「そうですか。――それなら、良かった」
「本当、羽津紀ちゃん⁉」
二人にうなづいて返すと、亜澄さんは、テンション高く踵を返す。
「お、おい、亜澄?」
「なら、もう、式場の手配しなきゃじゃないの!ああ、そうだ、紀子さんに、結納の日取り確認しておこうかしら!」
「あ、亜澄さん!あの!」
「おい、母さん!」
私達の制止も聞かず、彼女は、そのまま飛び出すように病室を後にする。
三ノ宮社長は、半分あきれたように見やると、私を振り返った。
「――家内が暴走して、申し訳ありません。羽津紀さん、愚息を、よろしくお願いします」
そして、深々と頭を下げると、彼もまた、病室を出て行く。
残された私達は、呆然としたまま、それを見送ったのだった――。
今日まで、聖が持って来てくれたいろいろが、旅行用の大きなバッグに入っているのだ。
それを持ち上げると、江陽がベッドに座りながら尋ねてきた。
「羽津紀、どこ行くんだよ」
「……どこって……部屋に帰るわよ」
「何でだよ。ここにいれば良いだろ」
徐々に、ゴネ始める気配を感じ、私は眉を寄せ、諭すように続ける。
「不本意な状況とはいえ、せっかく、家族が揃う機会ができたんだから、部外者は外すわよ」
「部外者じゃねぇだろ」
「江陽」
――そう言ってもらえるのは……まあ、うれしい。
……けれど、今は、私の出る幕じゃない。
なのに、ヤツは、そんな思いをスルーし、あっさりと言った。
「どうせ、身内になるんだから、お前もいろよ」
「こっ……‼」
あまりにあっさりと言われ、私も、三ノ宮夫妻も固まる。
「ち、ち、ちょっと、江陽‼」
「江陽、どういう事⁉羽津紀ちゃん、お付き合いしていたの?!」
すると、亜澄さんは我に返り、慌てる私と、平然としている江陽を交互に見ながら、問い詰めてきた。
「い、いえ、そういう訳では……」
「これからだけどよ、時間の問題だからな」
――ああ、もう!
――物事には、順序というものがあるでしょうに!
交際自体がこれからだというのに、何で、全部すっ飛ばすのよ、アンタは!
すると、動揺で言葉が続かない私に、三ノ宮社長は申し訳無さそうに尋ねた。
「本当ですか、羽津紀さん。息子の勝手な妄想ではないんですね?」
「え、い、いえ、あの」
「ンだと!」
今ばかりは、憤る江陽に同情してしまう。
――さすがに、その言い方は無いんじゃ……。
だが、彼は、若干あきれたように江陽を見やると、私に言った。
「息子は昔から、口を開けば、あなたの事ばかりで――少々、不憫というか……こちらが心配になる程でしたので……」
「……は……はあ……」
――いや、どう反応すれば良いのよ!
どんどん顔どころか、全身が熱を持っていく感覚。
――江陽、後で覚えてなさい‼
私は、うつむくと、おずおずとうなづいた。
「……えっと……お、お付き合い、の、予定……は、あります……」
「そうですか。――それなら、良かった」
「本当、羽津紀ちゃん⁉」
二人にうなづいて返すと、亜澄さんは、テンション高く踵を返す。
「お、おい、亜澄?」
「なら、もう、式場の手配しなきゃじゃないの!ああ、そうだ、紀子さんに、結納の日取り確認しておこうかしら!」
「あ、亜澄さん!あの!」
「おい、母さん!」
私達の制止も聞かず、彼女は、そのまま飛び出すように病室を後にする。
三ノ宮社長は、半分あきれたように見やると、私を振り返った。
「――家内が暴走して、申し訳ありません。羽津紀さん、愚息を、よろしくお願いします」
そして、深々と頭を下げると、彼もまた、病室を出て行く。
残された私達は、呆然としたまま、それを見送ったのだった――。