大嫌い同士の大恋愛
「――……さすがに……悪いな、羽津紀……」
 ベッドの端に腰掛け、江陽は、申し訳無さそうに頭をかきながら私に言った。
「……ええっと……まあ、亜澄さんがうれしそうだから、良いんじゃないの」
 ――この後、実家から、鬼のように電話が来るのは、覚悟しなければだけれど。
 すると、ヤツは、私に隣に座るように手招きしたので、それに従い腰を下ろした。
「……っつーか、結婚前提って、言ってただろ」
「――……そ、そうだけど……まだ、お付き合いもしてないじゃない」
「良いじゃねぇの。交際ゼロ日婚っての?」
「――まあ、まったくのゼロからでもないけれどね」
「それもそうだな」
 江陽は、口元を上げると、私の肩を抱き、自分の胸に引き寄せた。
「こ、江陽?」

「――じゃあ、結婚、するか、羽津紀?」

 耳に伝わる鼓動は――とても、速くて。

 ――決して、冗談で言っているのではないのだとわかる。

 ――……でも。

 私は、顔だけ上げて、ヤツを見上げた。

「羽津紀?」

「――……それは、嫌」

「え」

 ギョッとして私を引きはがすと、江陽は、泣きそうな顔でのぞき込んできた。

「――……やっぱり、オレの妄想だったのか?」

「もう!そうじゃなくて!」

 ――少しは、わかりなさいよ。

 私は、そう言って、勢いよくヤツの両頬を包み――


 ――自分から、キスをした。


「――え……?」

 一瞬、触れるだけのそれ。
 けれど、驚きに目を丸くしたヤツの表情が面白くて、思わず吹き出しそうになる。

「え、う、羽津紀?」

「……ねえ、江陽。――私ね、ちゃんと、一から始めたいのよ」

「――え」

 これまで、なし崩し的に進められてきた江陽とのスキンシップも込みで――一歩ずつ、進んで――


 ――そして、結婚したい。


 そう、自然と思えた。

「おい、結局、どういう事なんだよ?」
「……もう、鈍いわね、アンタも」
「お前に言われたくねぇ!」
「何ですって!」
 至近距離で言い合って――お互い、笑い出す。
「ああ、もう、何でこんななんだよ、オレ等」
「今さらよ」

「まあ、良いか。――これでも、大好きだからな」

 江陽は、ニヤリと笑い、私に言う。
 私も、同じように笑い――ヤツに告げた。


「――私も、大好きよ。こうちゃん」


 もう、一度口にしたら――それが、当然で、自然のような気がした。

 不意打ちだったのか、ヤツは、これ以上無いほどに目を見開くと、真っ赤になって固まる。
 ――けれど。


「オレの方が、大好きだぞ?――うーちゃん」


 そう、張り合うように、返してきたのだった。
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