大嫌い同士の大恋愛
エピローグ

「――……じゃあ、気をつけて」


「おう」


 江陽の、マンション退去の日。
 すっかり空になった部屋を眺め、私は、隣で同じように視線を向けているヤツを見上げた。
「でも、まあ、会社で会うから、淋しくないわよね」
「ンな訳ねぇだろ」
 そう言うと、江陽は私を抱き寄せ、キスを落とす。
「こ、江陽!」
「こうやって、すぐに会えなくなるんだぞ。――淋しいに決まってる」
「バッ……!」
 あまりにストレートに言われ、反射で突き飛ばそうとするが、すぐに手首を掴まれ、その無駄に端正な顔を更に近づけた。

「うーちゃんは、淋しくないのか?」

「――……っ……!」

 その、甘えるような声音に、思わず固まる。
「……さ、さみ、しい……わよ」
 どうにか、ぎこちなくだが伝えると、私をそっと、優しく抱き締めた江陽は、背中をゆっくりと撫でた。
「――いろいろ、世話になったな」
 そして、そう言って、そっと離れる。
「……ちゃんと、ご家族と話すのよ」
「わかってるって」
「――何かあったら……まあ、たぶん、亜澄さんが先に連絡してくるでしょうけど」
「……何で、母さんと繋がってんだよ、お前は」
 私は、その、ふてくされたヤツの疑問に、苦笑いで答えた。

「だって、お姑さん(・・・・)とは、上手にやっていきたいじゃない?」

「――っ……!」

 その意味がわかったのか、江陽は、首まで真っ赤になる。
「……ま、まあ、そういうコトなら……仕方ねぇ、か」
 ゴニョゴニョと口ごもりながらも、納得しているように見えるけれど――その視線は、空っぽの部屋の中をさまよっている。
 私は、それに気づき、クスリ、と、笑った。

「――まあ、まずは、一つずつ進みましょうか」

 江陽は、同じように、笑って返す。

「……だな」

 ようやく、大嫌いから、大好きに変わったばかりなのだ。
 いずれ来るだろう未来を夢見るのも良いけれど――これから経験する、いろんな事を、すっ飛ばすのは嫌。

 私は、江陽を見上げ、言った。

「――じゃあ、これから、よろしくね。――こうちゃん」

「こちらこそ、だ。――うーちゃん」

 二人笑い合い――キスをする。


 ――これから先は、どれだけケンカしようが――江陽を大嫌いになる事は、もう、無いんだろう。

 そう思うと、不思議な気持ちになるが――



 ――きっと、コレが、恋愛。


 ――私だけの――大恋愛、なのだ。



                     大嫌い同士の大恋愛―――――――――END
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