大嫌い同士の大恋愛
 聖が部屋に戻った後、私は、淡々とルーティンをこなす。
 毎日の生活を乱されるのは嫌なんだ。
 それは――江陽に突き飛ばされ、腕の骨を折った時に、痛感した。

 運悪く、右腕のヒジ辺りの骨を折った私は、そのまま整形外科に直行。
 そして、がっちりとギプスを付けられ、約一か月。
 ご飯を食べるのも、着替えるのも、お風呂に入るのも――もちろん、トイレだって、不便極まりなく。
 ようやく解放される頃には、江陽に対する恨み言が蓄積していったものだ。


 ――……うーちゃん、なおった?

 ようやく登園できると、ヤツは、恐る恐る私の機嫌をうかがうように尋ねてきた。
 私は、ジロリ、と、見やり、ただ、うなづいて返す。
 すると――。

 ――よかった!じゃあ、また、いっしょにあそぼう。

 一瞬で笑顔になった江陽を見た瞬間、私の中で、怒りが沸き起こる。

 ――ヤダ。

 そう、冷たく言い放つと、そのまま年長の部屋に一人で歩いて行く。
 江陽は、驚いた顔を見せると、すぐに追いかけてきた。

 ――なんでだよ!うーちゃんは、オレといっしょにあそぶって、やくそくしたじゃん!

 私は、ヤツの都合の良い頭の中を呪いながら、完全に無視を決め込む。
 すると、部屋で遊んでいた男連中が、私に言ったのだ。

 ――うづき(・・・)、コケておもちゃにぶつかったんだって?マヌケー!

 ――よえぇなー!

 アハハ、と、残酷なまでの他人事(ひとごと)感。
 私は、イラつきながら、自分のロッカーに、着替え袋を突っ込む。
 そして、ジロリとそいつらをにらみ言い返した。

 ――こうちゃんが、つきとばしたせいだもん。

 すると、そいつらは、鼻で笑う。

 ――でも、ころんだのは、おまえがマヌケだからじゃん。

 私が反論しようとすると、気配を感じ取ったのか、副担任の先生がタイミングよくやってきて、私とそいつらを引きはがした。

 ――羽津紀ちゃん、こうちゃんもわざとじゃないし、怒らないであげよう?

 そう言った副担任も――男。

 私は、完全に無視を決め込み、自分の席に座る。

 ――なんで、こうちゃんの、みかたするの。

 男連中は――(わたし)が弱いから悪い、そう言うのだ。

 そして、遠巻きに見ていた女の子達は、仲裁に入るでもなく、ただ、ひそひそとこちらを見ては、クスクスと笑っているだけ。


 ――ぜんぶ、こうちゃんのせいだ。


 ワケのわからないわがままを許してしまった自分を後悔しながら、私は、元凶が部屋に入って来るのを見やると、避けるように席に着いた。
 妹たちは、私がケガをするような真似は絶対にしないし、親もさせなかった。
 それは――全員、女だからだったせいか。

 ――もう、男なんて、みんな敵だ。

 私は、幼い心に、深く教訓のように刻み込んだのだった。
< 16 / 143 >

この作品をシェア

pagetop