大嫌い同士の大恋愛
翌朝早朝。いつものように洗濯を干すためにベランダに出ると、ガラリ、と、隣から同じような音がした。
そして、視線を向けると、同じように洗濯物を抱えて出てきた江陽と目が合い、次には、顔の表情が、スッと消えていくのがわかる。
「……おう……はよ、羽津紀」
「――おはようございます」
同じタイミングで外に干そうとしているので、私は、他人行儀に頭を下げると、再び中に入る。
「お、おい、羽津紀、何逃げてんだ」
「逃げてません。――顔を合わせたくないだけです」
昨日の今日で、平然と挨拶を交わす精神力は無い。
こちとら、鳴り始めそうな心臓を抑え込むのに必死なのだから。
「何だよ、そりゃ」
「――いい加減にしてよ。女嫌いはどこ行ったのよ」
「お前は別だろうが」
――ああ、もう!何で、そう、特別扱いして――。
男嫌いで通している自分が、こんなヤツに一喜一憂しているのが、悔しくて仕方ない。
私は、はあ、と、息を吐くと、ガラス戸を閉めた。
そのまま、家事を終え、出勤準備に取り掛かろうとすると、インターフォンが鳴り響く。
私は、画面を見やり、思いきり眉を寄せた。
『う、羽津紀!ヤベェ!何か、ヘンなメッセージが来てる!』
「……は?」
『プライベート用のスマホ、誰にも番号なんて教えて無ぇのに!』
「……それが?」
『怖ぇだろうが!昨日の今日で!』
再び、言い合いが始まってしまい、私は、大きく息を吐く。
このままでは、また、聖を心配させてしまうではないか。
私が、渋々ながらもドアを開けると、目の前の江陽は、青い顔をしながら、玄関に入り込んできた。
「ちょっ……!出なさいよ!」
「できるか!見ろ、コレ!」
そう言って、ヤツが目の前に見せたスマホのロック画面に映ったメッセージ。
――今夜は、部屋にいる?
私は、思わず背筋が寒くなるが、見上げた江陽は、もっと怯えている。
見た目に反して、昔からイレギュラーには弱いんだから。
そして、そういう時は、必ず私に甘えるのだ。
――うーちゃん、たすけてよー!
目の前の江陽は、見た目は変わったが、中身は大して成長していないというコトか。
私は、あきれながら、ヤツを見上げた。
「アンタ、何か、したんじゃないの」
「な、何かって……何もして無ぇぞ」
「無意識で、よ。――女嫌いのクセして、会社じゃ女に対しての外面は良いみたいだし?」
「し、仕事だろうがっ!仕方ねぇって割り切らなきゃ、やっていけねぇだろ」
そう言って、江陽は、はああ、と、身体を折ると大きく息を吐く。
そして、私を、顔を伏せながら見上げた。
その上目遣いに、心臓が反応しそうで、私は一歩下がって理性を保つ。
「――……本ッ当ー……に、心当たりは無いワケ?」
言いながら、ジロリと江陽を見やる。
「無いって言ってンだろ……」
江陽は、不服そうに言い返すが、不意に、何かが思い当たったのか、視線をさまよわせソワソワし始めた。
――……これは。
私は、ヤツの頬を掴む。
「う、羽津紀?」
そして、戸惑うヤツにお構いなしに、思い切りつねり上げた。
「痛ぃっ……!!!」
「アンタ、相変わらずウソがヘタね!」
「ウ、ウソなんか……」
言い淀む江陽は、まだ、挙動不審だ。
私は、あきれながらも、ヤツを見上げる。
「昔っから、アンタ、ウソつく時、落ち着きが無くなるのよ」
「――っ……‼」
ギクリ、と、固まった江陽は、視線をあちらこちらに向け続ける。
私は、その行動に、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
そういうところは、昔のままだなんて。
「――……うづ……」
「で、何をしたのよ」
江陽は、逃げられないとあきらめたのか、渋々、口を開いた。
「……昨日……企画の部屋に行く前に、廊下ですれ違った女が持ってた荷物、代わりに持ってやった……」
「――へえぇえ?」
「……もしかしたら……その時の女かも……」
「顔は覚えてないの?」
「見てもねぇっつーか――……そもそも、積んだ段ボール箱で、顔が埋まりそうだったんだよ」
私は、ボソボソと言い訳する江陽に、あきれ果てた。
「……何、フラグ立ててんのよ。――まあ、それじゃあ、同情の余地も無いわね」
バッサリと言い捨て、私は、青くなったヤツを、玄関から押し出したのだった。
そして、視線を向けると、同じように洗濯物を抱えて出てきた江陽と目が合い、次には、顔の表情が、スッと消えていくのがわかる。
「……おう……はよ、羽津紀」
「――おはようございます」
同じタイミングで外に干そうとしているので、私は、他人行儀に頭を下げると、再び中に入る。
「お、おい、羽津紀、何逃げてんだ」
「逃げてません。――顔を合わせたくないだけです」
昨日の今日で、平然と挨拶を交わす精神力は無い。
こちとら、鳴り始めそうな心臓を抑え込むのに必死なのだから。
「何だよ、そりゃ」
「――いい加減にしてよ。女嫌いはどこ行ったのよ」
「お前は別だろうが」
――ああ、もう!何で、そう、特別扱いして――。
男嫌いで通している自分が、こんなヤツに一喜一憂しているのが、悔しくて仕方ない。
私は、はあ、と、息を吐くと、ガラス戸を閉めた。
そのまま、家事を終え、出勤準備に取り掛かろうとすると、インターフォンが鳴り響く。
私は、画面を見やり、思いきり眉を寄せた。
『う、羽津紀!ヤベェ!何か、ヘンなメッセージが来てる!』
「……は?」
『プライベート用のスマホ、誰にも番号なんて教えて無ぇのに!』
「……それが?」
『怖ぇだろうが!昨日の今日で!』
再び、言い合いが始まってしまい、私は、大きく息を吐く。
このままでは、また、聖を心配させてしまうではないか。
私が、渋々ながらもドアを開けると、目の前の江陽は、青い顔をしながら、玄関に入り込んできた。
「ちょっ……!出なさいよ!」
「できるか!見ろ、コレ!」
そう言って、ヤツが目の前に見せたスマホのロック画面に映ったメッセージ。
――今夜は、部屋にいる?
私は、思わず背筋が寒くなるが、見上げた江陽は、もっと怯えている。
見た目に反して、昔からイレギュラーには弱いんだから。
そして、そういう時は、必ず私に甘えるのだ。
――うーちゃん、たすけてよー!
目の前の江陽は、見た目は変わったが、中身は大して成長していないというコトか。
私は、あきれながら、ヤツを見上げた。
「アンタ、何か、したんじゃないの」
「な、何かって……何もして無ぇぞ」
「無意識で、よ。――女嫌いのクセして、会社じゃ女に対しての外面は良いみたいだし?」
「し、仕事だろうがっ!仕方ねぇって割り切らなきゃ、やっていけねぇだろ」
そう言って、江陽は、はああ、と、身体を折ると大きく息を吐く。
そして、私を、顔を伏せながら見上げた。
その上目遣いに、心臓が反応しそうで、私は一歩下がって理性を保つ。
「――……本ッ当ー……に、心当たりは無いワケ?」
言いながら、ジロリと江陽を見やる。
「無いって言ってンだろ……」
江陽は、不服そうに言い返すが、不意に、何かが思い当たったのか、視線をさまよわせソワソワし始めた。
――……これは。
私は、ヤツの頬を掴む。
「う、羽津紀?」
そして、戸惑うヤツにお構いなしに、思い切りつねり上げた。
「痛ぃっ……!!!」
「アンタ、相変わらずウソがヘタね!」
「ウ、ウソなんか……」
言い淀む江陽は、まだ、挙動不審だ。
私は、あきれながらも、ヤツを見上げる。
「昔っから、アンタ、ウソつく時、落ち着きが無くなるのよ」
「――っ……‼」
ギクリ、と、固まった江陽は、視線をあちらこちらに向け続ける。
私は、その行動に、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
そういうところは、昔のままだなんて。
「――……うづ……」
「で、何をしたのよ」
江陽は、逃げられないとあきらめたのか、渋々、口を開いた。
「……昨日……企画の部屋に行く前に、廊下ですれ違った女が持ってた荷物、代わりに持ってやった……」
「――へえぇえ?」
「……もしかしたら……その時の女かも……」
「顔は覚えてないの?」
「見てもねぇっつーか――……そもそも、積んだ段ボール箱で、顔が埋まりそうだったんだよ」
私は、ボソボソと言い訳する江陽に、あきれ果てた。
「……何、フラグ立ててんのよ。――まあ、それじゃあ、同情の余地も無いわね」
バッサリと言い捨て、私は、青くなったヤツを、玄関から押し出したのだった。