大嫌い同士の大恋愛
4.テンプレ展開などたまったものではない
その後、出勤準備を終え、いつものように聖を迎えに行こうとドアを開けると、目の前には江陽が待ち構えていいた。
「……いい加減にして」
「――……頼む、羽津紀。助けてくれ」
目の前で拝むように頭を下げられ、一瞬怯む。
けれど、私は、ヤツを押しのけ、聖の部屋のインターフォンを鳴らす。
「羽津紀」
「嫌よ。妙なもめ事に巻き込まないで」
「マジで困るんだよ!――オレ、女に近づかれると、吐きそうになるんだ」
「――……は?」
じゃあ、今までの私への振る舞いは何なのよ。
眉間にしわを寄せて江陽をにらむと、ヤツは、気まずそうに視線を逸らす。
「――……だから……お前は別なんだって」
私は、その言葉に、額に血管が浮き出そうになる。
一瞬でも、良いように取ってしまった自分に説教だ。
「……ああ、そう。私は、女扱いされていないという事で良いのね」
「違っ……」
「良いわよ。そっちの方が助かる。――こっちも、アンタを男とは思っていないから」
売り言葉に買い言葉。
ほんの少し、胸が痛かったのは――気のせいだ。
私は、江陽に背を向けると、聖の部屋のドアが開くのを待つ。
「羽津紀、だから――」
「まあ、良いわよ。職場で吐かれるのも困るし」
「そういうんじゃなくてな」
「――で、助けるって、何よ。四六時中くっついて回る気?」
江陽は、う、と、怯む。
そして、ゴニョゴニョと口ごもりながら答えた。
「……た、例えば……付き合ってるってコトにする、とか……?」
「却下」
バッサリと切って捨てる。
そんなテンプレ展開など、たまったものではない。
大体、どうアクロバットすれば、男嫌いと公言している私が、女嫌いのコイツと付き合う事になるというのだ。
「じゃあ、アタシはどうですかー⁉」
すると、不意に上機嫌な高い声が聞こえ、江陽と二人、そちらに視線を向ける。
聖は、相変わらず隙の無い美貌で、ニッコリと微笑んだ。
「おはよー、羽津紀」
「聖……?」
いつもと変わらない挨拶。
けれど、私は、眉を寄せた。
「ちょっと、何言い出すのよ。江陽の言う事なんて、本気にしなくても良いわよ」
大体、ヤツに聖はもったいない。
「おい、羽津紀。こっちは、切実なんだぞ」
「うるさいわね、自業自得じゃないの」
「あ⁉」
再び言い合いが始まりそうになるが、聖は、空気も読まずに入り込んでくる。
「アタシ、別に構いませんよ?一緒に出勤とか、お昼一緒とかで良いんでしょ?」
「ちょっ……何、勝手に話進めてんのよ!」
「でも、羽津紀は嫌なんでしょ?でも、三ノ宮くんは、切実なんだから――人助け?」
聖は、ニッコリと江陽を見上げると、ヤツの腕を取る。
「おっ……おいっ!」
その手を、急いで振り払おうとする江陽に、聖は上目遣いで尋ねた。
「これも吐きそうですかー?」
「――……が、我慢、できなくもねぇ」
「じゃあ、もうちょっと頑張れますー?」
「や、やめろ!」
その返事に気を良くした聖は、更に密着しようとするが、江陽は、意地でもさせるか、と、手で防御する。
「聖、いい加減にしなさい」
「はぁーい」
私が諫めると、聖は、あっさりとヤツから離れた。
そして、思い出したように自分の部屋の鍵をかける。
「でも、悪くないんじゃないですかー?」
振り返り江陽を見上げる聖は、自分の価値を最大限に引き出すように、微笑みを向けた。
ヤツは、その笑みにもしかめ面だったが。
「――……要相談だ……」
そう言いながら、気まずそうに私に視線を向ける。
私は、それを避けるように歩き出すと、言い捨てた。
「条件的には、申し分無いわよ。聖は、見ての通りの美人だから。ストーカーも、あきらめるんじゃない?」
「……お前は、良いのかよ」
ボソリと聞こえた言葉に、一瞬だけ、戸惑うけれど、原因なんてわかるものか。
「別に構わないわよ。――聖に迷惑がかからなければ」
「――……ああ、そうかよ」
負け惜しみのように言い捨て、江陽は、聖に向かって手を差し出した。
彼女は、私をチラリと見やると、ヤツに笑顔を向ける。
「よろしくねー、江陽くん」
いつもと変わらない聖の明るい声が、今は、何故か、イラついてしまった。
「……いい加減にして」
「――……頼む、羽津紀。助けてくれ」
目の前で拝むように頭を下げられ、一瞬怯む。
けれど、私は、ヤツを押しのけ、聖の部屋のインターフォンを鳴らす。
「羽津紀」
「嫌よ。妙なもめ事に巻き込まないで」
「マジで困るんだよ!――オレ、女に近づかれると、吐きそうになるんだ」
「――……は?」
じゃあ、今までの私への振る舞いは何なのよ。
眉間にしわを寄せて江陽をにらむと、ヤツは、気まずそうに視線を逸らす。
「――……だから……お前は別なんだって」
私は、その言葉に、額に血管が浮き出そうになる。
一瞬でも、良いように取ってしまった自分に説教だ。
「……ああ、そう。私は、女扱いされていないという事で良いのね」
「違っ……」
「良いわよ。そっちの方が助かる。――こっちも、アンタを男とは思っていないから」
売り言葉に買い言葉。
ほんの少し、胸が痛かったのは――気のせいだ。
私は、江陽に背を向けると、聖の部屋のドアが開くのを待つ。
「羽津紀、だから――」
「まあ、良いわよ。職場で吐かれるのも困るし」
「そういうんじゃなくてな」
「――で、助けるって、何よ。四六時中くっついて回る気?」
江陽は、う、と、怯む。
そして、ゴニョゴニョと口ごもりながら答えた。
「……た、例えば……付き合ってるってコトにする、とか……?」
「却下」
バッサリと切って捨てる。
そんなテンプレ展開など、たまったものではない。
大体、どうアクロバットすれば、男嫌いと公言している私が、女嫌いのコイツと付き合う事になるというのだ。
「じゃあ、アタシはどうですかー⁉」
すると、不意に上機嫌な高い声が聞こえ、江陽と二人、そちらに視線を向ける。
聖は、相変わらず隙の無い美貌で、ニッコリと微笑んだ。
「おはよー、羽津紀」
「聖……?」
いつもと変わらない挨拶。
けれど、私は、眉を寄せた。
「ちょっと、何言い出すのよ。江陽の言う事なんて、本気にしなくても良いわよ」
大体、ヤツに聖はもったいない。
「おい、羽津紀。こっちは、切実なんだぞ」
「うるさいわね、自業自得じゃないの」
「あ⁉」
再び言い合いが始まりそうになるが、聖は、空気も読まずに入り込んでくる。
「アタシ、別に構いませんよ?一緒に出勤とか、お昼一緒とかで良いんでしょ?」
「ちょっ……何、勝手に話進めてんのよ!」
「でも、羽津紀は嫌なんでしょ?でも、三ノ宮くんは、切実なんだから――人助け?」
聖は、ニッコリと江陽を見上げると、ヤツの腕を取る。
「おっ……おいっ!」
その手を、急いで振り払おうとする江陽に、聖は上目遣いで尋ねた。
「これも吐きそうですかー?」
「――……が、我慢、できなくもねぇ」
「じゃあ、もうちょっと頑張れますー?」
「や、やめろ!」
その返事に気を良くした聖は、更に密着しようとするが、江陽は、意地でもさせるか、と、手で防御する。
「聖、いい加減にしなさい」
「はぁーい」
私が諫めると、聖は、あっさりとヤツから離れた。
そして、思い出したように自分の部屋の鍵をかける。
「でも、悪くないんじゃないですかー?」
振り返り江陽を見上げる聖は、自分の価値を最大限に引き出すように、微笑みを向けた。
ヤツは、その笑みにもしかめ面だったが。
「――……要相談だ……」
そう言いながら、気まずそうに私に視線を向ける。
私は、それを避けるように歩き出すと、言い捨てた。
「条件的には、申し分無いわよ。聖は、見ての通りの美人だから。ストーカーも、あきらめるんじゃない?」
「……お前は、良いのかよ」
ボソリと聞こえた言葉に、一瞬だけ、戸惑うけれど、原因なんてわかるものか。
「別に構わないわよ。――聖に迷惑がかからなければ」
「――……ああ、そうかよ」
負け惜しみのように言い捨て、江陽は、聖に向かって手を差し出した。
彼女は、私をチラリと見やると、ヤツに笑顔を向ける。
「よろしくねー、江陽くん」
いつもと変わらない聖の明るい声が、今は、何故か、イラついてしまった。