大嫌い同士の大恋愛
 出勤時、前を歩いていた聖と江陽の姿は似合いすぎて、すれ違う人達が、一瞬、視線を向けていく。
 そして、私達が出社した途端、会社内は一気に色めき立った。
 江陽に目を付けていた女性陣は、聖に負けを認めざるを得ないのが悔しいのか、口々に恨み言を吐く。
 聖のファンの男性陣は、それでも、彼女の性格を把握している者が多いのか、そんなに続かないと、高をくくっているようだった。
 そんな中、私は、一人、企画課の部屋に入り、デスクに山になった書類にチラリと視線を向けた。

 ――恋愛なんて、したい人間がすればいい。

 ――……私は、絶対にするものか。

 そう、心の中で誓いを新たにする。


「おはようございます、名木沢さん」

 すると、四班の班長――片桐(かたぎり)さんが声をかけてきた。
 彼は、私よりも三つ上。二十八歳にして、班長を務める、有能な人だ。
 ひょろっとしたような見た目に反して、筋トレが趣味という彼。
 ――一体、どこに筋肉がついているのだろうというのは、企画課の公然の謎である。
 そして、その温和な雰囲気に、男嫌いの私が、どうにか普通の対応ができる数少ない男性の一人でもあった。
「おはようございます。何でしょうか」
四班(ウチ)のアイデア表、送っておきましたので、確認お願いしますね」
「承知しました」
 アイデア表、というのは、四班――新規企画班に限り、企画に取り掛かる前段階の、乱雑に出てきたアイデアを並べるだけのもの。
 それを見て、私が、興味を持ったものをピックアップしなければならない。
 ――他の人の意見は、その後のようだった。
 どうして、そんな重責を負わせたがるのか、とも思うけれど、課長が言うには、一番ハズしてないから、との事なので、逃げるワケにもいかない。
 すると、いつもならすぐに席に戻って行く彼は、私の様子をうかがったまま動こうとしなかった。
「……あの……?」
「あ、いや……あの、名木沢さん、大丈夫かと思って……」
「何がでしょう」
 頑なになりそうな私に、彼は、柔らかく微笑んで返した。
「――いや、幼なじみと仕事が一緒っていうのは、やりにくいかと思って」
「いえ、お気遣いなく」
 バッサリとそう切り捨て、私は席に着くと、パソコンを立ち上げた。
 すぐに送られてきたものをチェックし始めると、課内がざわつく。
「――おはようございます」
 江陽の声だが、顔など上げない。
 私は、そのまま、様々なアイデアを眺め、コレをどう発展させたら面白くなるのか、という事だけ頭の中を回し続けたのだった。
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