大嫌い同士の大恋愛
「やっぱり、課長が引っ張って来ただけのコトはあるね」
「え」
「最初、企画課全員、反対だったんだよ。何で、総務部の女性が、僕達の企画をチェックするような立場になるのかって」
私は、穏やかに話す、穏やかでない話題に、口を閉じた。
――そんなの、私が一番聞きたいんですけど。
「でも、課長に、名木沢さんの指摘したトコ聞いて、みんな、ハッとさせられたんだ。――僕達の常識って、普通の人達には、常識じゃないんだ、って」
「……私は……大したコト、言ったつもりは無かったんですけど……」
――コレ、意味わかんないんだけど。
確か、新商品のサンプルが休憩室に置かれた時、聖とパッケージを見ながら、そんなコトを話していた。
新しく、お菓子の方もやってみようと作ったらしい、香辛料を全面に押し出したスナックを一口食べ――私は、眉をしかめたのだ。
――何がしたいの、コレ。いろんな味が混ざって、わかんない。
「いやぁ、僕達、いろいろ作り過ぎて、迷走してたんだな、って。自分のトコの香辛料をアピールしたくて、馴染みのあるスナックに振りかけたらいけるんじゃないかって思ったんだけど――まあ、おっしゃる通り、アンケートでも大不評」
片桐さんは、アハハ、と、笑ってくれたので、私も気まずさが和らいだ。
「でも、あの時は、ただ思った事が口から出てしまっただけで――」
その後、企画の決定権を持つような立場に引き上げられるなんて、思ってもみなかったのだ。
「うん。でも、課長も言ってたけど、下手に知識のある人より、一般的な感覚がある人が必要だったんだよ。僕達は、そういう人達に届けるんだから」
「――そうですね」
私は、彼の言葉にうなづくと、お弁当に箸をつける。
すると、目の前に、ポン、と、鶏の野菜巻きが置かれた。
「え」
「おかず、交換しない?」
「え、あ――でも、お口に合うか……」
「それこそ、食べなきゃわからないよ?」
私は、何だか上手く言いくるめられたような気もしたが、既に、片桐さんは、置いてしまったのだ。
「じ、じゃあ……何が良いでしょうか」
「うーん……悩むなぁ。みんな美味しそうで――」
そう言いながら箸を伸ばそうとすると、不意に、大きな手が私のお弁当箱に伸びてきた。
――え。
そして、卵焼きを拾い上げる。
「ちょっと、江陽!何すんのよ!」
――拾い上げたのは、江陽だ。
「うるせぇ。腹減ったんだよ」
「返しなさいよ!」
立ち上がる私よりも先に、ヤツは、卵焼きを口に入れた。
「ああぁっっ――――!!!!」
まるで、小学生のようなやり取り。
けれど、それは――私達には、あまりに自然な事で。
「返しなさいっ、江陽!」
「無理だろ、もう食っちまった」
「ふざけないでよ!」
「ハイハイ。お二人さん、そこまで」
ヒートアップしそうな私達の間に、片桐さんが、穏やかに割って入ってくる。
我に返った私は、渋々引き下がりながらも、江陽をにらみつけた。
「――覚えてなさい」
「ケチくせぇな」
「もう、ホント、仲良いのか悪いのか、わかんないわねー、二人とも」
すると、聖が江陽の腕に絡みつきながら笑って言った。
「聖、コイツから目を離さないで」
「ヤダ、羽津紀、何か口説き文句みたい」
「バカ言わないで」
「まあまあ。じゃあ、名木沢さん、僕はコッチをもらっても良いかな?」
更に続きそうなやり取りに、片桐さんがスルリと入る。
私は、不意打ちをくらい、思わずうなづいてしまった。
「ありがと――うん、美味しいね」
彼は、箸を伸ばした先の豚の角煮を口に入れると、ニッコリと微笑む。
「コレ、ウチの八角使ってる?」
「え、わかりました⁉」
思わず食いついてしまう。
まさか、そんな隠し味がわかる男がいるとは。
すると、満足そうにうなづき――更に、続けた。
「うん。……やっぱり、思った通りだなぁ」
「え?」
片桐さんは、箸を置くと、私を真っ直ぐに見つめた。
その、真剣な表情に、思わず姿勢を正す。
向かい合ったまま、数十秒。
――彼は、まるで、それが自然な事のように、私に言ったのだ。
「僕と、付き合いませんか、名木沢羽津紀さん」
その、まさかの展開に――私の頭は、完全に停止したのだった。
「え」
「最初、企画課全員、反対だったんだよ。何で、総務部の女性が、僕達の企画をチェックするような立場になるのかって」
私は、穏やかに話す、穏やかでない話題に、口を閉じた。
――そんなの、私が一番聞きたいんですけど。
「でも、課長に、名木沢さんの指摘したトコ聞いて、みんな、ハッとさせられたんだ。――僕達の常識って、普通の人達には、常識じゃないんだ、って」
「……私は……大したコト、言ったつもりは無かったんですけど……」
――コレ、意味わかんないんだけど。
確か、新商品のサンプルが休憩室に置かれた時、聖とパッケージを見ながら、そんなコトを話していた。
新しく、お菓子の方もやってみようと作ったらしい、香辛料を全面に押し出したスナックを一口食べ――私は、眉をしかめたのだ。
――何がしたいの、コレ。いろんな味が混ざって、わかんない。
「いやぁ、僕達、いろいろ作り過ぎて、迷走してたんだな、って。自分のトコの香辛料をアピールしたくて、馴染みのあるスナックに振りかけたらいけるんじゃないかって思ったんだけど――まあ、おっしゃる通り、アンケートでも大不評」
片桐さんは、アハハ、と、笑ってくれたので、私も気まずさが和らいだ。
「でも、あの時は、ただ思った事が口から出てしまっただけで――」
その後、企画の決定権を持つような立場に引き上げられるなんて、思ってもみなかったのだ。
「うん。でも、課長も言ってたけど、下手に知識のある人より、一般的な感覚がある人が必要だったんだよ。僕達は、そういう人達に届けるんだから」
「――そうですね」
私は、彼の言葉にうなづくと、お弁当に箸をつける。
すると、目の前に、ポン、と、鶏の野菜巻きが置かれた。
「え」
「おかず、交換しない?」
「え、あ――でも、お口に合うか……」
「それこそ、食べなきゃわからないよ?」
私は、何だか上手く言いくるめられたような気もしたが、既に、片桐さんは、置いてしまったのだ。
「じ、じゃあ……何が良いでしょうか」
「うーん……悩むなぁ。みんな美味しそうで――」
そう言いながら箸を伸ばそうとすると、不意に、大きな手が私のお弁当箱に伸びてきた。
――え。
そして、卵焼きを拾い上げる。
「ちょっと、江陽!何すんのよ!」
――拾い上げたのは、江陽だ。
「うるせぇ。腹減ったんだよ」
「返しなさいよ!」
立ち上がる私よりも先に、ヤツは、卵焼きを口に入れた。
「ああぁっっ――――!!!!」
まるで、小学生のようなやり取り。
けれど、それは――私達には、あまりに自然な事で。
「返しなさいっ、江陽!」
「無理だろ、もう食っちまった」
「ふざけないでよ!」
「ハイハイ。お二人さん、そこまで」
ヒートアップしそうな私達の間に、片桐さんが、穏やかに割って入ってくる。
我に返った私は、渋々引き下がりながらも、江陽をにらみつけた。
「――覚えてなさい」
「ケチくせぇな」
「もう、ホント、仲良いのか悪いのか、わかんないわねー、二人とも」
すると、聖が江陽の腕に絡みつきながら笑って言った。
「聖、コイツから目を離さないで」
「ヤダ、羽津紀、何か口説き文句みたい」
「バカ言わないで」
「まあまあ。じゃあ、名木沢さん、僕はコッチをもらっても良いかな?」
更に続きそうなやり取りに、片桐さんがスルリと入る。
私は、不意打ちをくらい、思わずうなづいてしまった。
「ありがと――うん、美味しいね」
彼は、箸を伸ばした先の豚の角煮を口に入れると、ニッコリと微笑む。
「コレ、ウチの八角使ってる?」
「え、わかりました⁉」
思わず食いついてしまう。
まさか、そんな隠し味がわかる男がいるとは。
すると、満足そうにうなづき――更に、続けた。
「うん。……やっぱり、思った通りだなぁ」
「え?」
片桐さんは、箸を置くと、私を真っ直ぐに見つめた。
その、真剣な表情に、思わず姿勢を正す。
向かい合ったまま、数十秒。
――彼は、まるで、それが自然な事のように、私に言ったのだ。
「僕と、付き合いませんか、名木沢羽津紀さん」
その、まさかの展開に――私の頭は、完全に停止したのだった。