大嫌い同士の大恋愛
休憩室の事件は、既に、企画課全員が知るところとなり、戻って来た私に、容赦なく不躾な視線が向けられた。
それを無視して、デスクに戻ると、パソコンのスリープを解除。
四係から送られてきた――片桐さんが送ってきたファイルを開き、再びにらみつけるように、データを見やる。
――ああ、結局、疑問点を聞けなかったな。
数十個はあるアイデアを眺め、数点、気になるものがあったので、詳しく尋ねたかったが――さっきの今で、どうしろと。
もう少し、思慮深い人だと思ったのに。
私が、こういう反応するだろうって、思わなかったのかしら。
「名木沢さん、疑問点はどのアイデアです?」
「え」
不意に降ってきた声に顔を上げると、空いている隣の席に着いた片桐さんが、既に書類を置き、スタンバイしていた。
「え、あ、あの」
「さっき、プレゼンしそこねたので」
ニッコリと、業務中の態度を見せられ、私は、戸惑う。
けれど、彼は、素知らぬ顔で、各メンバーから出されたアイデアの詳細が書いてある用紙を私に見せた。
「今回は、いつもより少ないので、細かいところまでご説明しますよ」
あまりに変わらない彼に、先ほどのコトは、夢だったのかと思ってしまいそうだ。
――いや、夢で良い。
「あ、で、では――」
開き直るように咳払いすると、私は、パソコンを見ながら、彼にいろいろと突っ込んだ質問を始めたのだった。
「で、どうするの、羽津紀?」
終業後、聖と一緒の帰り道。
興味津々の彼女は、私をのぞき込み尋ねてきた。
「何がよ」
「え、あの人。――企画課の班長さん――片桐さん、だったよね?」
「良く知ってるわね」
あきれたように返すと、聖は、体勢を戻し、ドヤ顔で言う。
「当然!社内のイイ男は、すべてチェック済みだもん」
「……ああ、そうだったわね」
私は、彼女を見上げ、苦笑いする。
こんな風に、素直に男が欲しいと思えるのなら、彼の提案に、即、乗っかっただろう。
――でも。
「まあ、気の迷いか何かじゃないの。それか、怖いもの見たさ?」
何にせよ、私が男から好かれる要素が無い事は、私自身が一番良く知っているのだ。
「羽津紀、それは――」
聖が反論しかけると、
「残念ながら――どっちもハズレ」
そう、割って入られ、二人で振り返る。
「……片桐さん?」
彼は、少しだけ息を切らし、私達の後方からやって来ていた。
「良かった、追いついた」
「あの、何でしょう。まだ、プレゼンがありましたか」
真顔で尋ねる私を、彼どころか、聖まで眉を下げて見てきた。
「え」
「もうー、羽津紀、察しなさいよー」
「何を」
「だから」
「ああ、久保さん、大丈夫。気にしてないから」
片桐さんは、いつもと変わらず、穏やかに聖を制すると、私を見つめる。
「名木沢さん、これから時間があるなら、夕飯一緒にどうかな」
「申し訳ありません。聖と食べる予定なので」
間髪入れずに答えると、隣で聖が、ワタワタとし始めた。
「ちょっと、聖、落ち着きなさいよ」
「落ち着けるワケないでしょー!アタシのコトはいいからー」
「良い訳ないでしょうが。また、倒れる気?」
「一日くらい、大丈夫だよー。それに、昨日一緒に食べたじゃない」
「別に、続いても良いじゃないの」
――私に逃げる口実をちょうだい、と、言っているのに。
察してほしいのは、聖の方だ。
二人で言い合っていると、不意に、聖は片桐さんに視線を向けた。
――いや、正確には、その後ろだ。
それを無視して、デスクに戻ると、パソコンのスリープを解除。
四係から送られてきた――片桐さんが送ってきたファイルを開き、再びにらみつけるように、データを見やる。
――ああ、結局、疑問点を聞けなかったな。
数十個はあるアイデアを眺め、数点、気になるものがあったので、詳しく尋ねたかったが――さっきの今で、どうしろと。
もう少し、思慮深い人だと思ったのに。
私が、こういう反応するだろうって、思わなかったのかしら。
「名木沢さん、疑問点はどのアイデアです?」
「え」
不意に降ってきた声に顔を上げると、空いている隣の席に着いた片桐さんが、既に書類を置き、スタンバイしていた。
「え、あ、あの」
「さっき、プレゼンしそこねたので」
ニッコリと、業務中の態度を見せられ、私は、戸惑う。
けれど、彼は、素知らぬ顔で、各メンバーから出されたアイデアの詳細が書いてある用紙を私に見せた。
「今回は、いつもより少ないので、細かいところまでご説明しますよ」
あまりに変わらない彼に、先ほどのコトは、夢だったのかと思ってしまいそうだ。
――いや、夢で良い。
「あ、で、では――」
開き直るように咳払いすると、私は、パソコンを見ながら、彼にいろいろと突っ込んだ質問を始めたのだった。
「で、どうするの、羽津紀?」
終業後、聖と一緒の帰り道。
興味津々の彼女は、私をのぞき込み尋ねてきた。
「何がよ」
「え、あの人。――企画課の班長さん――片桐さん、だったよね?」
「良く知ってるわね」
あきれたように返すと、聖は、体勢を戻し、ドヤ顔で言う。
「当然!社内のイイ男は、すべてチェック済みだもん」
「……ああ、そうだったわね」
私は、彼女を見上げ、苦笑いする。
こんな風に、素直に男が欲しいと思えるのなら、彼の提案に、即、乗っかっただろう。
――でも。
「まあ、気の迷いか何かじゃないの。それか、怖いもの見たさ?」
何にせよ、私が男から好かれる要素が無い事は、私自身が一番良く知っているのだ。
「羽津紀、それは――」
聖が反論しかけると、
「残念ながら――どっちもハズレ」
そう、割って入られ、二人で振り返る。
「……片桐さん?」
彼は、少しだけ息を切らし、私達の後方からやって来ていた。
「良かった、追いついた」
「あの、何でしょう。まだ、プレゼンがありましたか」
真顔で尋ねる私を、彼どころか、聖まで眉を下げて見てきた。
「え」
「もうー、羽津紀、察しなさいよー」
「何を」
「だから」
「ああ、久保さん、大丈夫。気にしてないから」
片桐さんは、いつもと変わらず、穏やかに聖を制すると、私を見つめる。
「名木沢さん、これから時間があるなら、夕飯一緒にどうかな」
「申し訳ありません。聖と食べる予定なので」
間髪入れずに答えると、隣で聖が、ワタワタとし始めた。
「ちょっと、聖、落ち着きなさいよ」
「落ち着けるワケないでしょー!アタシのコトはいいからー」
「良い訳ないでしょうが。また、倒れる気?」
「一日くらい、大丈夫だよー。それに、昨日一緒に食べたじゃない」
「別に、続いても良いじゃないの」
――私に逃げる口実をちょうだい、と、言っているのに。
察してほしいのは、聖の方だ。
二人で言い合っていると、不意に、聖は片桐さんに視線を向けた。
――いや、正確には、その後ろだ。