大嫌い同士の大恋愛
「江陽くーん!」
大声で手を振られ、当の本人はギョッとして駆けてきた。
「おいっ、大声で呼ぶな!」
「ごめんなさいー」
そう言いながら、聖は、ヤツの腕にからみついた。
「お、おい、聖」
――え。
いつの間に、呼び捨てにしてるのよ。
私は、動揺を隠しきれず、江陽を見やる。
「あ、いや、コイツが……付き合ってるなら、名前呼べって……その……」
どんどん語尾が小さくなっていくヤツから、視線を逸らす。
胸の奥がモヤモヤとし始め、気分は最悪だ。
「名木沢さん、大丈夫?」
「え」
すると、片桐さんは、私の隣にいつの間にかやって来て、小声でそう尋ねてきた。
何の事かわからず、キョトンと彼を見やる。
そんな私を見て、彼は、苦笑いを浮かべた。
「……まあ、良いか。久保さんは、三ノ宮くんに任せて、どうかな?」
「でも」
「そうだよ、羽津紀。アタシのコトは気にしないで、片桐さんとご飯行って来なよー」
聖が後押ししてきて、私は、戸惑う。
けれど、状況を把握したのか、江陽が、責めるように私に言った。
「何で、羽津紀が行かなきゃなんだよ」
「……は?」
「別に、コイツが好きとかじゃねぇんだろ。行く義務無ぇよな」
そう言って片桐さんをにらむように見やる江陽に、私の中のモヤモヤが、イライラに変わった。
「ちょっと、江陽。アンタ、何、失礼な態度取ってんのよ」
「うるせぇな」
「大体、片桐さんは班長よ。ヒラのアンタよりも立場は上なの。わきまえなさい!」
「……っ……のっ……!」
私は、そう言って、ヤツをにらみつける。
――まったく――子供の頃と、全然変わってない!
昔から――江陽は、私の周りの人間に暴言を吐き、遠ざけようとしていた。
おかげで、友達と言える女子はおらず、江陽に近づきたい一心の数人が、ちょこちょこと周りを固めていたくらいだ。
そんな生活を強いられた記憶がよみがえり、怒りは倍増する。
「名木沢さん?」
「え、あ」
すると、肩を軽く叩かれ、我に返る。
江陽に気を取られ、片桐さんの存在を忘れかけていた。
私は、彼を見上げ、次には深々と頭を下げる。
「――申し訳ありません。ご期待に添える事は、できませんので」
「……そっか。――でもさ、キミの男嫌いを治せたら、状況は変わるかな?」
「え」
思わぬ言葉に、顔を上げる。
片桐さんは、少しも動揺を見せる事なく、微笑んだ。
「長期戦は最初から覚悟してるからね」
「え、あ」
彼は、戸惑う私に、諭すように続ける。
「――大丈夫。キミがどんな態度を取ろうが、僕は、気にしてないから」
「で、でも」
本当に、男なんていらないのに。
「これから、ゆっくりと僕という人間を知ってもらえれば、良いから」
「え、あの――」
――それは、どういう……。
そう問いかける間もなく、片桐さんは踵を返す。
「今日のところは、引き下がるよ。また、明日ね」
私の態度は織り込み済みなのか。
彼は、何事も無かったかのように、会社の方へと去って行ったのだった。
大声で手を振られ、当の本人はギョッとして駆けてきた。
「おいっ、大声で呼ぶな!」
「ごめんなさいー」
そう言いながら、聖は、ヤツの腕にからみついた。
「お、おい、聖」
――え。
いつの間に、呼び捨てにしてるのよ。
私は、動揺を隠しきれず、江陽を見やる。
「あ、いや、コイツが……付き合ってるなら、名前呼べって……その……」
どんどん語尾が小さくなっていくヤツから、視線を逸らす。
胸の奥がモヤモヤとし始め、気分は最悪だ。
「名木沢さん、大丈夫?」
「え」
すると、片桐さんは、私の隣にいつの間にかやって来て、小声でそう尋ねてきた。
何の事かわからず、キョトンと彼を見やる。
そんな私を見て、彼は、苦笑いを浮かべた。
「……まあ、良いか。久保さんは、三ノ宮くんに任せて、どうかな?」
「でも」
「そうだよ、羽津紀。アタシのコトは気にしないで、片桐さんとご飯行って来なよー」
聖が後押ししてきて、私は、戸惑う。
けれど、状況を把握したのか、江陽が、責めるように私に言った。
「何で、羽津紀が行かなきゃなんだよ」
「……は?」
「別に、コイツが好きとかじゃねぇんだろ。行く義務無ぇよな」
そう言って片桐さんをにらむように見やる江陽に、私の中のモヤモヤが、イライラに変わった。
「ちょっと、江陽。アンタ、何、失礼な態度取ってんのよ」
「うるせぇな」
「大体、片桐さんは班長よ。ヒラのアンタよりも立場は上なの。わきまえなさい!」
「……っ……のっ……!」
私は、そう言って、ヤツをにらみつける。
――まったく――子供の頃と、全然変わってない!
昔から――江陽は、私の周りの人間に暴言を吐き、遠ざけようとしていた。
おかげで、友達と言える女子はおらず、江陽に近づきたい一心の数人が、ちょこちょこと周りを固めていたくらいだ。
そんな生活を強いられた記憶がよみがえり、怒りは倍増する。
「名木沢さん?」
「え、あ」
すると、肩を軽く叩かれ、我に返る。
江陽に気を取られ、片桐さんの存在を忘れかけていた。
私は、彼を見上げ、次には深々と頭を下げる。
「――申し訳ありません。ご期待に添える事は、できませんので」
「……そっか。――でもさ、キミの男嫌いを治せたら、状況は変わるかな?」
「え」
思わぬ言葉に、顔を上げる。
片桐さんは、少しも動揺を見せる事なく、微笑んだ。
「長期戦は最初から覚悟してるからね」
「え、あ」
彼は、戸惑う私に、諭すように続ける。
「――大丈夫。キミがどんな態度を取ろうが、僕は、気にしてないから」
「で、でも」
本当に、男なんていらないのに。
「これから、ゆっくりと僕という人間を知ってもらえれば、良いから」
「え、あの――」
――それは、どういう……。
そう問いかける間もなく、片桐さんは踵を返す。
「今日のところは、引き下がるよ。また、明日ね」
私の態度は織り込み済みなのか。
彼は、何事も無かったかのように、会社の方へと去って行ったのだった。