大嫌い同士の大恋愛
 そのまま、呆然と立ち尽くしている私を、聖が心配そうにのぞき込んできた。
「ちょっと、羽津紀、大丈夫ー?」
「あ、う、うん……」
 そう返しながらも、頭の中は、片桐さんの言葉が回っている。

 ――彼という”人間”を知る……?


 ――男ではなく、人として……?


「おい、羽津紀!」
 すると、次は、江陽が私の肩を揺さぶった。
「な、何よ」
「お前、男嫌いなんだろ?!何、動揺してんだよ!」
「かっ……関係無いでしょうが!大体、誰が動揺してるって⁉」
 私は、ヤツの手を払い落とすと、マンションの方へ向かって歩き出した。
「おい、羽津紀――」
「お二人さんは、どうぞ、食事にでも行ってくれば?私の事は、お気になさらず」
 殊更、丁寧に言えば、江陽は、う、と、言葉に詰まった。
「江陽くん、羽津紀はこうなったら長いわよー?」
「……知ってる」
「じゃあ、アタシ達は、ご飯行こうー?」
 上機嫌な聖の声が、何故かイラつく。
 私は、振り返る事無く、足を進めた。


 マンションで一人、夕飯を食べながら、私は先ほどの片桐さんの言葉を頭の中で反芻する。
 今まで、そんな風に考えた事なんて無かった。

 男なんて、大嫌い。

 そう、刷り込みのように思い続けてきたのだから。

 でも――人としてなら――片桐さんは、いつでも穏やかで、気も遣える大人な人だ。

 ――仕事上でなら、やりづらい事など思い浮かばない程に、こちらの考えをちゃんと聞いて答えてくれ、彼と作り上げた新商品は、この二年でかなりの数に上る。

 江陽のように、自分の思うようにいかないと癇癪を起すような、お子様ではないのだ。

「――アイツも、少しは見習えば良いのよ」

 いつまで経っても子供の頃と変わらないヤツに、私は、思わずぼやいてしまう。

 ――けれど、先ほどの聖と一緒にいる姿を思い出し、また、胸はムカムカする。

 まるで、片桐さんの事を考えるのを妨害されているよう。

 私は、思い切り首を振ると、ムカムカを吐き出すように大きく息を吐いたのだった。
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