大嫌い同士の大恋愛
6.デートとは言わない
 翌日、ぼんやりした頭のまま起き上がり、私は出勤準備に取り掛かる。
 昨夜は、結局、いろんなコトがグルグルと回り続け、大して眠れなかったのだ。

 ――それもこれも、ヤツのせいだ。

 もう、不都合なコトは、全部、江陽のせいにするコトにした。

 過去のアレコレを思い出し、開き直る。
 これくらい、文句は言わせるものか。

 すると、予約設定していた洗濯機が、終了の音を響かせる。
 それに現実に引き戻され、足早に洗面所に向かい、洗濯物を取り出した。
 一応、昨日見た天気予報は晴れ。
 ――でも、花粉が心配なので、部屋干しにしよう。
 昨日、江陽とベランダで顔を合わせてしまった記憶がよみがえり、そんな理由をこじつけた。


 だるい身体をどうにか動かし、いつもの時間に玄関を出る。
 そして、聖の部屋のインターフォンを鳴らすと――何と、すぐに顔を出したのだ。

「あ、羽津紀」

「……どうしたの、聖?」

「何がー?」

「……すぐに出てくるなんて……今日、晴れの予報だったのに……」

 半ば呆然としながらこぼれた言葉に、聖は、そのキレイに整えた眉を寄せた。
「羽津紀、ひどーい」
「そう言われても仕方ないでしょう」
「まあ、そうなんだけど――」

「――聖、行くぞ」

 そんなやりとりの中、不意に割り込んできた声に、私は、固まる。
 江陽は、自分の部屋の鍵をかけると、スタスタと私の横を通り過ぎ、聖を見やった。
「うんー!あ、ゴメン、羽津紀。アタシ、これから、江陽くんと出勤するコトにしたからさー」
「――え」
 両手を合わせて謝る彼女は、それだけ言うと、先を歩くヤツを追いかけた。

 ――……何で?

 私に背を向けて歩いていく二人を、立ち尽くしたまま見送る。

 ――……いつの間に、そんなコトになってるの?

 昨日、二人で食事に行っただろうから、その時何か決め事でも――……。

 そんな考えがよぎり、私は、首を勢いよく振った。
 ――いや、これで、良いんじゃない。
 二人は、付き合ってるフリをしてるんだから、私込みで行動していたら疑われるだろう。
 そう自分を納得させる。

 ――……けれど、胸の奥のモヤモヤは、どんどん広がっていく。

 それを振り払い、私は、二人から距離を取りながら、歩き出したのだった――。
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