大嫌い同士の大恋愛
聖と江陽が付き合っているという事実は、徐々に、確実なのだという認識が広がった。
――というのも、あれから二週間ほど経つが、出勤、昼食、帰宅――更には休日までも、二人は一緒に行動しているのだ。
つい昨日終わったゴールデンウイークも、ほぼ、毎日、時間関係無しに隣から二人の話し声が聞こえ、私は逃げるように、込み合う街中に繰り出していた。
そんな中を歩いていると、自分が一人なのだと痛感させられるが、今まで、ずっとそんな風だったと思い直す。
そして、どうせなら参考に、と、商業施設の輸入食品の店やスーパーを回りまくった。
――一人だって、私は全然平気だ。
……少しだけ、さみしさを感じてしまうのは――聖といるコトが当たり前になっていたからだ。
――その心地良さに、慣れ切っていたからだ――。
「名木沢さん、ここ、良いかな?」
今日も、一人で休憩室でお弁当を広げていると、不意に、頭上から声がかかった。
私が顔を上げると、目の前の片桐さんは、ニッコリと微笑む。
「――……どうぞ」
少々ふてくされたようになってしまったが、彼は気にも留めていないようで、簡単に前の席に着くと、自分のお弁当を広げる。
――あ、今日も美味しそう。
思わず視線を向けてしまった私は、ごまかすようにうつむいて今日のおかず――鶏のつくねの大葉巻きを口にした。
「綺麗だね」
「え」
その言葉に驚いて顔を上げると、片桐さんは、自分の箸で、私のお弁当箱を差した。
「大葉で巻いたの?」
「え、あ、ハイ」
「凝ってるね」
「……いえ。そこまで手間ではありません」
何だか、バツが悪くなり、ボソボソと返してしまう。
一瞬、自分のコトかと思ってしまったじゃない。
――聖じゃあるまいし、私が綺麗などと言われるはずもないのに、勘違いも甚だしい。
恥ずかしさで埋まりたくなる。
けれど、片桐さんは、そんな事情など関係無く、穏やかに話を続けた。
「そうだ、新規企画でクリアしたヤツ、今、工場で試作品作ってもらってるんだよ」
「え」
確か、私がゴーサインを出したものは、課長の元に行き、そこから更に詰めていくが――クリアしたものがあったのか。
「今回は、何品合格でした?」
「三つ。――まあ、手放しでオッケーとはならなかったけどね」
肩をすくめて苦笑いされ、私もつられる。
ウチの課長の目は、結構シビアなのだ。
「で、その中で、”今日の気分”の二つを試作してもらってる」
私は、片桐さんを見上げた。
今回の企画の中で、一番、私が興味を引かれたものだ。
その日の、その時の気分で、食事の味を変えられる、持ち歩ける調味料。
マイ七味、とかのように、目新しいものでは無いのだけれど、バリエーションが多いのだ。
一味、七味など鉄板なものから、豆板醬のような中華系、ハーブソルトのような洋風のもの。
ちょっと、外したものもあったが、厳選されたようだ。
コンセプトは簡単だけれど、ただ、持ち歩けるようにするのではなく、それぞれを組み合わせても使える。
無限に広がるそれに、興味を引かれたのだ。
「――気になるよね?」
「も、もちろんです」
まるで、目の前にぶら下げたエサに食いついたような感じになってしまったけれど、気になるに決まっている。
「一緒に見に行く?」
「え」
――これから?
午後の仕事もあるんだけれど。
そんな思いが顔に出ていたのか、片桐さんは、クスリ、と、口元を上げた。
「工場は、二十四時間稼働中。終業後の、プライベートで、どうかな?」
――……それは……俗に言う、デート、というものになるのでは。
まあ、行き先はアレだけれど。
すると、思わず悩んでしまった私の耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。
「羽津紀ー、何、何、デートの約束ー?」
「……聖」
後ろから抱き着いてきた彼女の腕を外しながら振り返り、私は固まる。
その更に後ろには――にらむように私を見ていた、江陽がいた。
――というのも、あれから二週間ほど経つが、出勤、昼食、帰宅――更には休日までも、二人は一緒に行動しているのだ。
つい昨日終わったゴールデンウイークも、ほぼ、毎日、時間関係無しに隣から二人の話し声が聞こえ、私は逃げるように、込み合う街中に繰り出していた。
そんな中を歩いていると、自分が一人なのだと痛感させられるが、今まで、ずっとそんな風だったと思い直す。
そして、どうせなら参考に、と、商業施設の輸入食品の店やスーパーを回りまくった。
――一人だって、私は全然平気だ。
……少しだけ、さみしさを感じてしまうのは――聖といるコトが当たり前になっていたからだ。
――その心地良さに、慣れ切っていたからだ――。
「名木沢さん、ここ、良いかな?」
今日も、一人で休憩室でお弁当を広げていると、不意に、頭上から声がかかった。
私が顔を上げると、目の前の片桐さんは、ニッコリと微笑む。
「――……どうぞ」
少々ふてくされたようになってしまったが、彼は気にも留めていないようで、簡単に前の席に着くと、自分のお弁当を広げる。
――あ、今日も美味しそう。
思わず視線を向けてしまった私は、ごまかすようにうつむいて今日のおかず――鶏のつくねの大葉巻きを口にした。
「綺麗だね」
「え」
その言葉に驚いて顔を上げると、片桐さんは、自分の箸で、私のお弁当箱を差した。
「大葉で巻いたの?」
「え、あ、ハイ」
「凝ってるね」
「……いえ。そこまで手間ではありません」
何だか、バツが悪くなり、ボソボソと返してしまう。
一瞬、自分のコトかと思ってしまったじゃない。
――聖じゃあるまいし、私が綺麗などと言われるはずもないのに、勘違いも甚だしい。
恥ずかしさで埋まりたくなる。
けれど、片桐さんは、そんな事情など関係無く、穏やかに話を続けた。
「そうだ、新規企画でクリアしたヤツ、今、工場で試作品作ってもらってるんだよ」
「え」
確か、私がゴーサインを出したものは、課長の元に行き、そこから更に詰めていくが――クリアしたものがあったのか。
「今回は、何品合格でした?」
「三つ。――まあ、手放しでオッケーとはならなかったけどね」
肩をすくめて苦笑いされ、私もつられる。
ウチの課長の目は、結構シビアなのだ。
「で、その中で、”今日の気分”の二つを試作してもらってる」
私は、片桐さんを見上げた。
今回の企画の中で、一番、私が興味を引かれたものだ。
その日の、その時の気分で、食事の味を変えられる、持ち歩ける調味料。
マイ七味、とかのように、目新しいものでは無いのだけれど、バリエーションが多いのだ。
一味、七味など鉄板なものから、豆板醬のような中華系、ハーブソルトのような洋風のもの。
ちょっと、外したものもあったが、厳選されたようだ。
コンセプトは簡単だけれど、ただ、持ち歩けるようにするのではなく、それぞれを組み合わせても使える。
無限に広がるそれに、興味を引かれたのだ。
「――気になるよね?」
「も、もちろんです」
まるで、目の前にぶら下げたエサに食いついたような感じになってしまったけれど、気になるに決まっている。
「一緒に見に行く?」
「え」
――これから?
午後の仕事もあるんだけれど。
そんな思いが顔に出ていたのか、片桐さんは、クスリ、と、口元を上げた。
「工場は、二十四時間稼働中。終業後の、プライベートで、どうかな?」
――……それは……俗に言う、デート、というものになるのでは。
まあ、行き先はアレだけれど。
すると、思わず悩んでしまった私の耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。
「羽津紀ー、何、何、デートの約束ー?」
「……聖」
後ろから抱き着いてきた彼女の腕を外しながら振り返り、私は固まる。
その更に後ろには――にらむように私を見ていた、江陽がいた。