大嫌い同士の大恋愛
「……聖、離れろ」

「はぁーい」

 ぶっきらぼう、と言えば、まだ聞こえは良いのかもしれない。
 ――けれど。

「江陽、何よ、自分の彼女にその言い方」
「うるせぇ。関係無ぇだろ」
「あるわよ。聖は私の親友よ」
「だからって、口挟むなよ」
「挟まなきゃいけないようなコトするんじゃないわよ、って言ってるのよ」
「そんなの、する訳ねぇだろ」
 お互いににらみ合うが、ヤツは、不意にそっぽを向いた。

「――行くぞ、聖」

「あ、待ってよ、江陽くんー」

 再び、私にチラリと視線だけを向けると、ヤツは、そのまま聖の腕を取り休憩室を出て行った。
「……何なのよ、一体……」
 私は、江陽をにらみながら、ボヤく。
 その一部始終を見ていた片桐さんは、少しだけ、あきれたように言った。

「――まったく……小学生かな、彼は?」

「……成長していないのは、確かだと思います」

 私が苦々しく言い捨て、同意すると、彼は、プッと吹き出す。
「そう言われたら、身もふたも無いね、三ノ宮くんは」
「――何を言われようが、自業自得です」
「相当嫌いなのかな、彼のコト?」
「え」
 そう言われ、片桐さんを見れば、試すような視線に捕まった。
 逃げようとしても、柔らかい空気が逃げさせてくれない。
 私は、渋々、あきらめてうなづいた。
「……嫌いですよ。……アイツのせいで、私は、人生、スタートして早々に狂ったんですから」
「――それで、今のキミが出来上がった?」
「……まあ……そう、ですね」
 彼は、何かを言いたげにしたけれど、口元を上げるだけだった。
「――……あの……私、戻りますが……」
「ああ、そうだね。――終業までに、考えておいてね」
「……あ」
 どうにも、片桐さんといると、調子が狂いそうになる。
 ――何かを見透かされているようで、居心地が悪い。
 けれど、新企画の事も気になるのだ。
 私は、立ち上がると、少しだけ緊張しながら、彼に告げた。

「――……ご一緒します」
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