大嫌い同士の大恋愛
 ちょっと目を離した隙に、聖が、その集団に自ら身を投じているではないか。

「ひっ……聖!何やってんの!」

 慌てて私が回収に向かえば、場がしらけたのか、女性二人は去って行くところで。
 目の前には、ナンパを妨害されたせいか、不機嫌な表情の二人連れの男性――いや、正確には、一人は平然としているので、もう一人が主犯(?)なんだろう。

「も、申し訳ありません。連れが、お邪魔しました」

 私は、波風を立てないよう頭を下げ、聖の腕を取る。
 すると、その不機嫌そうにしていた男性が、しかめ面で、吐き捨てるように言った。


「――ああ、さっさと、その酔っぱらい女、連れて行けよ。虫唾が走る」


「――……は?」


 言うに事欠いて――。
 
 私は、ジロリ、と、その男を見上げた。
 見た目は、好青年な優男。
 けれど、その雰囲気は明らかに、好意的なものではなくて。
 反射的に言い返してしまう。

「邪魔したのは悪いと思いますが、初対面の女性に、何て言い方するんですか」

「邪魔とかじゃねぇよ。近寄って来るなって言ってんだ。――これだから、女は頭悪ぃな」

 その瞬間、額に血管が浮かんだのがわかった。
 私は、大きく息を吐くと、ソイツ(・・・)をにらむ。

「今時、信じられない言い方。頭の中、錆びてます?ああ、もう、化石かしら。錆とかの問題じゃなかったわ」

「――……あ?」

 今度は、ソイツの額に血管が浮かんだ。

「初対面のヤツに言うセリフかよ」

「ぜひ、初対面でありたいわ。こんな、居酒屋の入り口でナンパするような、万年発情期男、知り合いなんて言ったら、目まいがしそう」

「――んだと!」

 男は怒りにまかせて、私の左腕を強く掴む。
 けれど、すぐに一時停止。

 そして、至近距離まで、その、無駄に端正な顔を近づけ――眉を寄せた。


「な、何すんのよ!」


「――……お前……本当に、初対面……か……?」


「当然でしょ!行くわよ、聖!」

 私は、力任せに腕を振り切ると、そばでオロオロしていた聖の手を取り、引きずるように店を出た。
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