大嫌い同士の大恋愛
「どんなでしょう?」
「ああ、まだ、初期段階だから、何ともね」
 そう言いながら、視線をサンプルに向ける。
「複数のものを合わせて使う事を前提にしているから、少し、バランスを変えないとみたいなんだよね」
「――難しそうですか」
 私が白衣の男性を見やれば、苦笑いで、頑張ります、と、返された。
 片桐さんは、更に突っ込んだ質問をされ、それに対し、いろいろと考えながら答える。
 それは、私の仕事の範疇ではないので、少しだけ下がると、部屋を見回した。
「ねえー、羽津紀ー」
 すると、聖が手招きするので、そちらに向かう。
 その台には、パッケージの候補のイラストが並んでいた。
 並行でデザインも考えているらしい。
「コレが、本決まり?」
「――まあ、候補、ってトコかしら」
 それは、確か、企画の段階で出された案を少し手直しした程度のもの。
「アタシ、持ち歩くんなら、もっとオシャレなデザインが良いなー」
「ひ、聖!」
 あっさりと手元のデザインを否定してくれた彼女の口を、私は慌てて塞ごうとするが、

「うん、うん。久保さんの言うコトも一理あるねぇ」

 一緒にのぞき込んでいた社長がうなづいてしまったので、手を止める。
「し、社長」
「パッと見で、どういう物が入っているか、わかると尚良いね」
「あ、ハ、ハイ」
「使うのは、老若男女問わないからさ」
「――ハイ」
 今の候補では、文字が大きく、原色が下地だ。
 確かに、これまでの瓶詰のものを少し変えただけのもの。
 ――デザインにまで、頭が回らなかった。
「そうだね。持ち歩く時って、お昼時とか――時間が限られているから、いちいち文字を確認するのも面倒か」
 片桐さんは、こちらにやってくると、顎に手を当て考え込む。
「す、すみません、片桐さん。――私のチェックが甘かったです」
「いや、僕も抜けていたよ。久保さん、ありがとう」
「いえいえー。お役に立てて何よりですー」
 ニッコリと、見惚れるような微笑みで、聖は返す。
 けれど、片桐さんは、うなづくだけで、すぐに社長と話し出した。

 ――……聖の微笑みに見惚れないとは……。

 同性の私でさえ、うっとりと見てしまいそうになるのに。
 彼の美的センスは、ちょっと、ズレているのだろうか。

「うん、何だか、上手くいきそうな気配がするねぇ」

 すると、社長が、呑気にそんなコトを言いながら踵を返した。
「し、社長?」
 付き添っていた工場長が慌てながら、うかがうと、社長はニコニコと返す。
「見学は終了。邪魔になると悪いしね、爺は、帰りますかな」
「あ、し、社長!」
 そう言って、スタスタと歩き出す社長を、私達は、慌てて追いかけた。
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