大嫌い同士の大恋愛
 バスに乗って会社まで戻り、ご機嫌な社長を見送ると、私達は一気に脱力。

「……毎度毎度、どうしてあの人は……」

 ボヤく私に、片桐さんは笑ってうなづいた。
「そうだね。まあ、でも、面白い人だし、憎めないんだよね」
「……そうなんですけど」
 あまりにも自由すぎるというか……はた迷惑というか……。
 けれど、そんな社長だから、面白い会社と言われているのだけれど。
「――じゃあ、僕は、会社に戻るね」
「え」
「デザイン、もうちょっと考えたいし――さっき開発の人と話したんだけど、容器の候補もいくつか決めておきたいんだ。確か、サンプル室に使えそうなヤツがあったと思うから」
「あ、じ、じゃあ、私も……」
 私が、そう言って、片桐さんの隣に向かおうとすると、思い切り、腕を引かれた。

「――……何よ、江陽」

「何で、羽津紀が行くんだよ。お前の仕事じゃねぇだろ」

「私が通した企画よ。責任があるでしょ」

「だからって――」

「江陽くん、羽津紀の気が済むようにしようよ、ね?」
 すると、聖が、江陽の腕にスルリと絡みつき、そう言って見上げた。
 私は、何だかその姿を見たくなくて、視線を逸らす。
「……けどよ」
「もう、いい加減にして。私がどうしようが、アンタには関係無いじゃない!」
「なっ……」
 それだけ言い捨てると、少し先を歩いていた片桐さんの元へ駆けていく。
 彼は、振り返り、私が追い付くのを待つと、苦笑いを浮かべた。
「良いの?」
「……何がですか」
「――いや、僕には願ったりだけどね」
 そう言って、再び歩き出す彼の後を、無言のままついていく。
 少しだけ歩き、チラリと振り返ると、江陽は、聖に引きずられるようにして、帰って行くところだった。
「そう言えば、あの二人、付き合ってるんだよね」
「え、あ。ハイ」
「名木沢さん、気まずくない?」
「……いえ」
 ――何なら、告白してきたあなたと一緒にいるのも、結構気まずいですが。
 そう返そうとし、口を閉じる。
 それは、さすがに本人の前じゃ言えない。

 何より――男性より先に、人として自分を見て欲しいと、私を思って言ってくれた彼に失礼だろう。

 私は、そのまま、片桐さんの少し後を歩き、社屋に入ると、企画課までエレベーターで二人で向かう。
 途中、すれ違った社員の視線が気になってしまったが、平然とした表情を作った。
「名木沢さん、僕、サンプル室の鍵持ってくるから、待っててくれますか」
「あ、ハイ」
 会社の中のせいか、仕事仕様の口調に戻った彼に、一瞬、戸惑ってしまう。
 切り替えの早さは、見習わなくては。
 私は、エレベーターから降りると、すぐ隣のサンプル室と言われる小さい物置のような部屋の前で待つ。
 そして、すぐに片桐さんは鍵を持ってきて、中に二人で入った。
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