大嫌い同士の大恋愛
 ようやく昼休みになり、私は、お昼ご飯を調達しに、財布を持って席を立つ。
 もう、完全に、聖とお昼は別々だ。
 それにさみしさを感じながらも、仕方ない、と、あきらめる。
 ――聖が、自ら提案したのだから、責任がある。
 そう言い聞かせるが、無意識にため息。
 朝からイレギュラーで、気分が乗り切らないうちに時間だけは経ってしまった。

「名木沢さん」

 すると、片桐さんが、お弁当を持ってこちらへやって来た。

「――あの」

「お昼、一緒にどうかな?」

「あ、えっと、今日は用意できなくて……」

 私は、何だか気まずくなり、視線を落としながらそう告げる。
 けれど、片桐さんは、あっさりとうなづいた。
「ああ、やっぱり。何か、珍しく、ギリギリに飛び込んできたから」
「――……忘れてください」
「じゃあ、今日、終わったら食事に行かない?」
「え」
 先日と同じように、何でもない事のように誘われ、私は固まる。
 企画課の部屋には、もう、誰も残っていない。
 休憩室の席取りに忙しいようだ。
「――昨日の事も、ちょっと、言い訳させてほしいな、って」
「言い訳なんていりません」
「でも、同意も無かった訳だし」
「それは、驚きましたと言いましたが」
 そう返せば、片桐さんは、眉を寄せた。
「名木沢さん、仕事中だから聞けなかったけどさ――それ、僕のいいように取って良い訳?」
「……え?」
「嫌だった、が、先だと思ったんだけど」
「――……わかりません」
 私は、視線を下げる。
 嫌とかよりも先に、驚き、そして――気持ち良かった。
 そんなコトを言ったら、いやらしい女だと思われるのは確定だ。
 すると、彼の手が頬に触れ、そっと私の顔を上げさせた。

「――片桐さん?」

「もう一度、試す?」

「ワケ、無いでしょう」

「だよね」

 眉を寄せた私を見ると、彼は、あっさりと笑って手を離す。
「でも、食事は、本当にどうかな?」
 たぶん、この人は、私がうなづくまで、こうやって誘い続けるだろう。
 優しく――逃げ場を作りながらも、ゆっくりと、確実に、追い詰めてくる。
「――……わかりました」
 そんな印象を持った私は、恐る恐るうなづいて彼を見上げた。

 視線が合う。

 ――すると、穏やかなだけではなかった片桐さんは、穏やかに、笑ってうなづいた。
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