大嫌い同士の大恋愛
「ちょっと、羽津紀!どうしたのよ!何で、知らない男にケンカ売っちゃってんの⁉」

 スタスタと前を歩く私に追いついた聖は、そう言って、腕を引いた。
 私は、振り返ると、ヒールで十センチは高い彼女を見上げる。

「……何で……かしら。……まあ、強いて言えば、嫌いだから」

「……ああ、もう……。……ホント、筋金入りの男嫌いよねぇー……」

 困ったように笑う聖は、酔っぱらっていても、三人中二人は振り返るような美貌で、クスクスと笑う。
 引き立て役の私は、それを気にする風でもなく、前を向いて足を進めた。

「まあ、もう、一生会わないでしょうよ。そんなヤツに、どう思われようが、痛くも痒くもないわ」

「ホント、男前ー」

「そこらへんの男には負ける気はしないから」

 ――私も、そう言ってしまうくらいには、酔っていたのだろう。

 二人で、酔ったテンションで妙に笑いが止まらず、会社借り上げのマンションに到着。

「じゃあね、おやすみー、羽津紀」

「おやすみなさい、聖」

 何の偶然か、隣同士の部屋の私達は、お互いに手を振り、中に入った。
 私は、玄関に入ると、はあ、と、大きく息を吐く。
 胃の中のハイボールのアルコールが、何だか、今日は、気持ち悪い。

 ――本当に、初対面か?

 そう言われ、一瞬、動揺した。

 ――……私は、あんな、口説き文句なんて、慣れていないんだから。
 
 だから、男なんて、嫌い。
 口説くためには、平気でウソつくなんて。
 大体、聖が寄って行ったんじゃない。
 何で、私に来るのよ。

 居酒屋のアルコールとタバコの臭いが染みついたジャケットに、スプレーをかけて、ハンガーラックにかける。
 そして、すべて脱ぎ捨て、簡単にシャワーを済ませて、一通りスキンケアをして終了。
 明日は、日曜日。

 ――二日酔いにだけは、なりたくないな……。

 そんな、どうでも良いコトを思いながら、私は、眠りについた。
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