大嫌い同士の大恋愛
 翌日、気まずいままに部屋を出ると、後ろから腕を取られ、振り返る。

「……何」

「……はよ。……一緒に行くぞ」

「は?アンタ、聖はどうしたのよ」

 そう問い詰めると、江陽は視線をさまよわせながら言う。
「……都合が悪いってよ」
「嘘つくんじゃないわよ、江陽」
 昨日、あれだけ熱を持って思いを伝えてくれた聖が、そう、易々と恋人の立場を手放すはずがない。
 私は、江陽をにらみ上げると、さらに挙動不審になった。
「べ、別に……」
「アンタ、せっかく協力してくれている聖を裏切る気?!」
「う、裏切るとかじゃねぇよ!」
 朝一番から口論が始まりそうになり、私は口を閉じると、江陽の手を振り払い、マンションを出た。


 イラつきを隠しきれずに出社すると、エレベーターを待つ人間の中に、周囲の視線を独り占めしている聖を見つけた。

「おはよう、聖」

「おっ……おは、よ、羽津紀……」

 私が声をかけると、あからさまに、ギクリ、と、した聖は、キョロキョロと視線をさまよわせる。
「……聖、江陽なら、いないけど」
「え、あ、そ、そうなんだ……」
 残念そうにうなづくので、私は、彼女に尋ねた。
「今日はどうしたのよ。一緒に出社じゃないの?」
「あ、う、うん。……江陽くん、都合悪くなったって……」
 私は、それを聞き、眉を寄せる。

 ――あのバカ!私には聖の都合が悪いなんて言っておきながら、どういうつもりよ!

「聖、私から、アイツに言っておくから、心配しないで」
「え、あ、違うの、羽津紀」
「え?」
 聖は、気まずそうに私を見下ろす。
「……ううん。……やっぱり、何でもないよ」
「聖?」
 何でもない訳ないような表情で笑い、聖は、エレベーターを先に下りて行った。

 ――一体、何なの?

 そう思ったが、昨日、江陽が聖の元に帰って行った後、何かあったのかもしれない。

 ――そして、それは、二人だけの問題であって、私は関係無い。
 
 それが、悲しいのは――きっと、気のせい。

 自分に言い聞かせ、私は、仕事に取り掛かった。
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