大嫌い同士の大恋愛
 ――うーちゃんは、オレだけと、あそぶんだよ。

 ――でも、さっちゃんと、あやちゃんも、あそびたいって、いってる。

 ――そんなのダメだ。オレは、うーちゃんとふたりだけがいい。

 ――……じゃあ、いいよ。


 駄々をこねる男の子に、つい、うなづいてしまう。

 断れば、下の妹同様、面倒なコトになるのは、わかっていたから。

 ――羽津紀ちゃん、こうちゃんの言うコトばかり、聞かなくてもいいのよ?羽津紀ちゃんは、羽津紀ちゃんがしたいようにしてもいいの。

 ――でも、こうちゃんは、わたしとじゃないと、いやだっていってた。

 ――それでも。羽津紀ちゃんが、イヤだって言ったら、こうちゃんも、きっと、わかってくれるわ。

 保育園の担任の先生とのやり取り――たぶん、その、直後だっただろう。

 ――きょうは、こうちゃんとはあそばない。

 そう、宣言したのだ。

 ――……そして、それは、あの悲劇を引き起こした原因でもあった――。



 翌朝、夢見の悪さに、ぼうっとしながら起き上がる。

 ――……何か、急に夢に出て来るなぁ……。

 私は、よれたTシャツと、くたくたになった高校時代のジャージのズボンという、色気の欠片も無い寝間着を着たまま、冷蔵庫を開け、水を一気に飲んだ。
 昨日は、悪酔いしたのだろうか。アルコールが、まだ、妙に残っている。
 朝食を作るのもおっくうで、軽く、ヨーグルトとバナナで済ませた。
 すると、外から、業者の声。

 ――ああ、そう言えば、大異動の時期か。

 我が勤務先、昇龍(しょうりゅう)食品株式会社は、年に一回、春に、全国二十支社でシャッフルのような大異動があるのだ。
 新入社員のからみもあるし、マンネリや不正防止のためとも言われるが――最有力理由は、たぶん、社長の気分だ。
 一代でここまでのし上がった社長、御年七十歳は、まだまだ若く第一線で働き、マンネリが大嫌い。
 何かにつけて、こちらがギョッとする事をしてくれ、理由は一言。
 ――そんな気分だったからな。
 私は、その武勇伝の数々をインターンの時に聞いて、面白い、と、即決したのだ。
 上がそういうスタンスなら、飽きる事も無いし、社員の数が多かったら、男とかかわる頻度も少なくて済むだろう。
 そんな理由で、決めてしまったのだが――いろいろあっても、もう、三年もいる。
 ここまで頑張ったんだ。たぶん、あと十年はいけるだろう。
 このご時世、せっかく手に入れた正社員の立場は、そう簡単に捨てられない。
 それなら、気に入った会社で働く方が、よほど生産的だ。
 それに――友人もできた。

 そんな出会いができた私は――たぶん、ラッキーだったんだ。
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