大嫌い同士の大恋愛
12.今さら言われたって
 私は、一瞬で、目が点になる。

 ――”サングループ”……??

 ――……って……あの、日本でも一、二を争う超有名な――……食品会社じゃ……。


 時間が止まったかのように停止した私に、母親は、ここぞとばかりに言った。

「そうなのよ。羽津紀は、知らなかっただろうけど――こうちゃん、正真正銘、サングループ社長の息子さんなんですって」
「まあ、事情で、籍を入れるまで、かなりかかってしまったのだけれどね――」

 江陽の母親――亜澄(あずみ)さんだったか――が言うには、社長と出会い江陽が生まれても、周囲は納得せず。
 父親が、社長を継ぐ時に、彼女と籍を入れ、江陽を引き取るという事を条件にしたそうだ。

 ――ああ、だから――引っ越して行ったのか。

 けれど、それなら、尚更、こんな風に私とお見合いなどしてる場合ではなかろうに。

「でも、江陽、羽津紀ちゃんと離れるのが心底嫌だったみたいでねぇ……」

「――え?」

 しみじみと、当時を思い出しながら亜澄さんが言う。
 私は、再び目が点だ。

「引っ越してしばらくは、前の家に戻ると言い張って、何回も家出したり、高校なんて男子校にしたりして――とにかく、羽津紀ちゃん以外の女の子はいらないって言って、近寄らせないようにしていたのよね」

「か、母さん‼」

 私は、慌てて母親の口を塞ごうとする江陽を凝視した。

 ――何、それ。

 ――……まるで――私をずっと好きみたいな……。

 そう思った瞬間、心臓が、ありえない速さで鳴り始めた。

 ――いや、単純すぎるでしょ、私!

 いくら、そんな風に、一途に好意を向けられた経験が無いからって――。
 大体、コイツに受けた嫌がらせは、そんなコトでチャラにはならないんだから。

 江陽は、真っ赤になりながら、私をうかがう。
 けれど、私は、すぐに視線を逸らした。

「だからね、親の都合で振り回してしまったお詫びに、せめて、羽津紀ちゃんとの接点を作ってあげられないかと思って、紀子さんに相談したのよ」
「亜澄さんとは、連絡先交換していたし、たまに会ってお茶してたからねぇ」
「……はぁ?」
 思わぬ事実に、顔をしかめる。

 ――でも、それでお見合いとか、やめてほしい。

 私は、息を吐くと、エレベーターのボタンを押した。
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