大嫌い同士の大恋愛
「ちょっと、羽津紀?」
「――帰る」
「アンタ、せっかくのご縁なのに」
私は、憤慨する母親を放置し、亜澄さんに頭を下げた。
「申し訳ありませんが、私、そもそも、男というものが嫌いなので、このお話は無かった事にしていただけますか」
「……羽津紀ちゃん」
眉を下げた彼女は、息子を見上げる。
「江陽、どうするの」
「どうするも何も、本人が嫌だっつってんだろ」
「でも、あなた、結婚相手が見つからなきゃ、跡は継げないって、お父さんに言われてるでしょう」
「――最初から、継ぐ気は無ぇよ。翔陽がいるだろうが。アイツ、継ぐ気満々だろ」
「翔陽は、まだ中学生よ。長男のあなたが継ぐのが筋じゃないの?」
「十数年ほったらかしで、跡継ぎが欲しいから引き取ったんだろうが。翔陽が生まれた時点で、オレは継がねぇって、親父に言ってあるんだよ」
通り過ぎていく二人の会話を聞くともなしに聞いてはいるが、私には、どうしてみようもない。
まるで――世界が違う。
私も母親も、口を挟めずにいると、亜澄さんはチラリと視線をこちらに向けた。
「ねえ、羽津紀ちゃん。もう少し考えてもらえないかしら?悪い話じゃないと思うのよ」
「あ、あの……」
そう言われても、うなづけるはずも無い。
すると、母親が、ここぞとばかりに割り込んできた。
「亜澄さん、二人とも同じ会社っていうじゃない。ちょっと、様子見てみたら?」
「ちょっ……お母さん!」
「もしかしたら、私達がお膳立てしなくても、良かったかもしれないでしょ?それが、こんな風な形になって、意地になってるんじゃないかしらねぇ」
「それもそうねぇ……」
二人でうなづき合っているのを、どうにか引きはがし、私は、到着したエレベーターに母親を押し込みながら乗ると、再び亜澄さんに頭を下げた。
「申し訳ありませんが、帰らせていただきます。――あと、私達の事は、早々にあきらめた方がよろしいかと」
「羽津紀、アンタ――」
母親が止めようとすると同時に、エレベーターのドアが閉まった。
「ちょっと、羽津紀!せっかくのご縁、もったいないじゃない!」
ふてくされながら言う母親を、私はジロリと見やる。
「お母さんの基準で言わないで。私は、結婚なんてしたくない。――でも、だからって、皐津紀にも紫津紀にも、話を持って行かないでよ。私達の幸せは、お母さんの幸せとは違うの」
そして、そう言い捨てると、口を閉じる。
母親は何か言いたそうに私を見ていたが、エレベーターが一階に到着する頃には、あきらめたのか、肩を落として、呼んでいたタクシーに乗り込んだのだった。
「――帰る」
「アンタ、せっかくのご縁なのに」
私は、憤慨する母親を放置し、亜澄さんに頭を下げた。
「申し訳ありませんが、私、そもそも、男というものが嫌いなので、このお話は無かった事にしていただけますか」
「……羽津紀ちゃん」
眉を下げた彼女は、息子を見上げる。
「江陽、どうするの」
「どうするも何も、本人が嫌だっつってんだろ」
「でも、あなた、結婚相手が見つからなきゃ、跡は継げないって、お父さんに言われてるでしょう」
「――最初から、継ぐ気は無ぇよ。翔陽がいるだろうが。アイツ、継ぐ気満々だろ」
「翔陽は、まだ中学生よ。長男のあなたが継ぐのが筋じゃないの?」
「十数年ほったらかしで、跡継ぎが欲しいから引き取ったんだろうが。翔陽が生まれた時点で、オレは継がねぇって、親父に言ってあるんだよ」
通り過ぎていく二人の会話を聞くともなしに聞いてはいるが、私には、どうしてみようもない。
まるで――世界が違う。
私も母親も、口を挟めずにいると、亜澄さんはチラリと視線をこちらに向けた。
「ねえ、羽津紀ちゃん。もう少し考えてもらえないかしら?悪い話じゃないと思うのよ」
「あ、あの……」
そう言われても、うなづけるはずも無い。
すると、母親が、ここぞとばかりに割り込んできた。
「亜澄さん、二人とも同じ会社っていうじゃない。ちょっと、様子見てみたら?」
「ちょっ……お母さん!」
「もしかしたら、私達がお膳立てしなくても、良かったかもしれないでしょ?それが、こんな風な形になって、意地になってるんじゃないかしらねぇ」
「それもそうねぇ……」
二人でうなづき合っているのを、どうにか引きはがし、私は、到着したエレベーターに母親を押し込みながら乗ると、再び亜澄さんに頭を下げた。
「申し訳ありませんが、帰らせていただきます。――あと、私達の事は、早々にあきらめた方がよろしいかと」
「羽津紀、アンタ――」
母親が止めようとすると同時に、エレベーターのドアが閉まった。
「ちょっと、羽津紀!せっかくのご縁、もったいないじゃない!」
ふてくされながら言う母親を、私はジロリと見やる。
「お母さんの基準で言わないで。私は、結婚なんてしたくない。――でも、だからって、皐津紀にも紫津紀にも、話を持って行かないでよ。私達の幸せは、お母さんの幸せとは違うの」
そして、そう言い捨てると、口を閉じる。
母親は何か言いたそうに私を見ていたが、エレベーターが一階に到着する頃には、あきらめたのか、肩を落として、呼んでいたタクシーに乗り込んだのだった。