大嫌い同士の大恋愛
13.しおらしくなったって、絆されない
江陽に引きずられるように居酒屋を出ると、そのままマンション方面まで、手を繋いで歩き出す。
休日の夕方とはいえ、まだまだ、外は明るい。
それに――元々、ここの人通りは多い方だ。
私は、ヤツの手から逃れるようにもがく。
「ちょ、ちょっと、江陽!……会社の人間に見られるじゃない……!」
何より気にしなければいけないのは、それだ。
こんなところを見られたら、明日からウワサにならないはずが無い。
けれど、ヤツは、足を止めようとしない。
「江陽ってば!」
「うるせぇ、この酔っぱらい。大人しく歩け!」
「よ、酔っぱらってなんか、いないわよ!」
「はぁ⁉フラフラだろうが!」
「江陽!」
「ああ、もう、少しは、静かにしろ!」
口ゲンカ状態のまま、どうにかマンションに到着すると、エレベーターで三階へ。
そして、引きずるように私を部屋の前まで連れて行くと、江陽は、左手を繋いだまま、右手を差し出した。
「鍵」
「……な、何よ、偉そうに」
「開けてやる」
「開けられるわよ」
さすがに、そこまで酔っぱらってはいない。
私は、バッグから鍵を取り出し、ドアを開ける。
「それじゃあね」
「待て、羽津紀」
玄関に入り、ドアを閉めると同時に、江陽が滑り込んできて、私は、ギョッとしてヤツを見上げる。
「な、何よ!勝手に入って来ないでよ!」
「――見合い、どうする気だよ」
「は?」
不意打ちのように尋ねられ、私は、キョトンとする。
「……だから、断るのかって」
「当たり前でしょ。――アンタは、どこぞのお嬢様とお幸せに」
そう言い捨てると、勢いよく左腕を取られた。
「ちょっ……江陽!」
「冗談でもやめろ」
「何がよ!――そもそも、私は、誰とも、恋愛したいとか結婚したいとか、一言も言ってないし、思ってもないのよ!」
「羽津紀」
瞬間、傷ついたような江陽の表情を真正面から見てしまい、思わず視線を逸らす。
「――……オレは、幸せになるなら、お前とが良い」
「――……え?」
耳に届いた言葉が、あまりにもヤツにそぐわなくて、チラリと見やる。
――え。
視界に入ったのは、真っ赤になった江陽の、無駄に端正な顔。
「――……羽津紀……オレのコト嫌いでも良いから――……一緒にいてくれ……」
「……こう、よ……」
――その言葉が、記憶をかすめ、脳裏に浮かんだのは小学校の頃。
もう、私の男嫌いは重症で、江陽が近くに寄って来ただけで逃げ回る日々を送っていて――確か、五年生の泊りがけの課外授業の夜だった。
みんな、キャンプファイヤーなんてものでテンションが上がっていたのを、遠目で一人、眺めていたら、ヤツがそっと近づいてきて。
――何よ。寄って来ないで、こうちゃん。
条件反射のように、背を向けて場所を移動しようとした時、腕を掴まれ言われたのだ。
――うーちゃん、逃げないで。
泣きそうな顔で訴えかけられ、一瞬、戸惑ってしまう。
そして――
――オレのコト嫌いでも良いから――……お願いだから……一緒にいてよ……。
その時、どうしてか――罪悪感を覚えてしまった私は、今だけ、と、言って、ヤツと並んでキャンプファイヤーを木の下で眺めていたのだ――。
休日の夕方とはいえ、まだまだ、外は明るい。
それに――元々、ここの人通りは多い方だ。
私は、ヤツの手から逃れるようにもがく。
「ちょ、ちょっと、江陽!……会社の人間に見られるじゃない……!」
何より気にしなければいけないのは、それだ。
こんなところを見られたら、明日からウワサにならないはずが無い。
けれど、ヤツは、足を止めようとしない。
「江陽ってば!」
「うるせぇ、この酔っぱらい。大人しく歩け!」
「よ、酔っぱらってなんか、いないわよ!」
「はぁ⁉フラフラだろうが!」
「江陽!」
「ああ、もう、少しは、静かにしろ!」
口ゲンカ状態のまま、どうにかマンションに到着すると、エレベーターで三階へ。
そして、引きずるように私を部屋の前まで連れて行くと、江陽は、左手を繋いだまま、右手を差し出した。
「鍵」
「……な、何よ、偉そうに」
「開けてやる」
「開けられるわよ」
さすがに、そこまで酔っぱらってはいない。
私は、バッグから鍵を取り出し、ドアを開ける。
「それじゃあね」
「待て、羽津紀」
玄関に入り、ドアを閉めると同時に、江陽が滑り込んできて、私は、ギョッとしてヤツを見上げる。
「な、何よ!勝手に入って来ないでよ!」
「――見合い、どうする気だよ」
「は?」
不意打ちのように尋ねられ、私は、キョトンとする。
「……だから、断るのかって」
「当たり前でしょ。――アンタは、どこぞのお嬢様とお幸せに」
そう言い捨てると、勢いよく左腕を取られた。
「ちょっ……江陽!」
「冗談でもやめろ」
「何がよ!――そもそも、私は、誰とも、恋愛したいとか結婚したいとか、一言も言ってないし、思ってもないのよ!」
「羽津紀」
瞬間、傷ついたような江陽の表情を真正面から見てしまい、思わず視線を逸らす。
「――……オレは、幸せになるなら、お前とが良い」
「――……え?」
耳に届いた言葉が、あまりにもヤツにそぐわなくて、チラリと見やる。
――え。
視界に入ったのは、真っ赤になった江陽の、無駄に端正な顔。
「――……羽津紀……オレのコト嫌いでも良いから――……一緒にいてくれ……」
「……こう、よ……」
――その言葉が、記憶をかすめ、脳裏に浮かんだのは小学校の頃。
もう、私の男嫌いは重症で、江陽が近くに寄って来ただけで逃げ回る日々を送っていて――確か、五年生の泊りがけの課外授業の夜だった。
みんな、キャンプファイヤーなんてものでテンションが上がっていたのを、遠目で一人、眺めていたら、ヤツがそっと近づいてきて。
――何よ。寄って来ないで、こうちゃん。
条件反射のように、背を向けて場所を移動しようとした時、腕を掴まれ言われたのだ。
――うーちゃん、逃げないで。
泣きそうな顔で訴えかけられ、一瞬、戸惑ってしまう。
そして――
――オレのコト嫌いでも良いから――……お願いだから……一緒にいてよ……。
その時、どうしてか――罪悪感を覚えてしまった私は、今だけ、と、言って、ヤツと並んでキャンプファイヤーを木の下で眺めていたのだ――。