大嫌い同士の大恋愛
少しだけ耳を澄ませ、江陽が大人しく部屋に帰ったのを確認した私は、その場で倒れ込んだ。
――ああ、今になって酔いが回ってきた。
クラクラするのは――ヤツの熱っぽい言葉にやられたせいじゃない。
あんなの、本気にしてどうするの。
――きっと、お見合いが嫌だから、私で手を打とうとでもいうのだろう。
――……男嫌いと女嫌いの恋愛なんて、成立するはずもないんだから。
「――づき、羽津紀ー?帰ってるのー?」
ぷっつりと切れた意識が、聞き慣れた声で戻って来て、私は、ボンヤリと起き上がると、辺りを見回した。
――ああ、そうだ。
あのまま、寝てしまったんだ。
私は、コンコン、と、叩かれ続けているドアを開け、顔を出す。
目の前には、心配そうに私を見下ろしている聖がいた。
「あ、やっと出てきた!ずっと、呼んでたんだよー。帰ってなかったのかと思ったー」
「ゴ、ゴメン。……意識が飛んでちゃって……」
そう言って彼女を中に入れ、コーヒーカップを棚から取り出す。
「あ、良いよー。すぐに部屋に戻るからさー」
すると、聖が玄関先でそう声をかけてくるので、手を止めた。
珍しい事もあるものだ。
大体、聖が部屋に来ると、一時間はダベっているのに。
「様子見に来ただけだよー。後、新情報?」
「……は?」
私が玄関に戻ると、聖が、内緒話をするように声を潜めながら言った。
「江陽クンの女嫌いの原因」
「え」
一瞬、心臓が跳ね上がってしまい、心の中で苦るが、顔には出さない。
聖は、私にその綺麗な顔を近づける。
「あのね、江陽クン、中学の時からモテまくってて、ストーカーみたいになっちゃった女子も、いっぱいいたんだって」
「……は?」
あまりの理由に、眉をしかめる。
「でもね、軽いヤツだけじゃなくて、高校の時は、家の特定とか、スマホののぞき見とか――結構、ヤバい事もされたんだってさ。それで、逃げるように大阪の大学受けたんだって」
「……それ……お友達情報……?」
さっき、二人で盛り上がっていたのは、そのせいか。
「うん。楠川クンに、高校の時のコト、いろいろ聞いてたんだー」
ニコリ、と、綺麗に微笑む聖は――いつもの、恋する女の顔だ。
――……やっぱり、聖には、幸せになってほしい。
その相手が、江陽でなければならないのなら――喜んで協力しよう。
「何か、精神的にやられた時もあって、そのせいで、吐きそうになるんだってさー」
「……そう。でも、だからって、不遜な態度を取って良い訳じゃないでしょう」
「でも、相当怖かったってコトだよねー」
「――じゃあ、アンタが癒してあげたら」
そう返すと、聖は、一瞬、目を丸くする。
「何よ」
「……羽津紀?」
「――何」
「……良いの?」
その問いかけの意味は――わからない振りをする。
「良いも悪いも、偽装とはいえ、アンタは彼女でしょう。――本気になったんなら、その立場を有効利用したらどう?」
私がそう言うと、聖は、困ったように眉を下げた。
「何よ」
「……羽津紀は、それで良いの?」
言外の意味を理解したくなくて、私は、うなづく。
「だから、私は、聖の味方なの。アンタが江陽が良いって言うなら、協力は惜しまないわよ」
「――……そっか……」
聖は、少しだけためらい、けれど、顔を上げる。
「わかった。――頑張ってみる」
「頑張りなさいな」
「うん!」
両手で拳を作ってうなづくと、聖は、今日は帰る、と、部屋を出た。
――私は、それを見送り――胸の奥のズキリとした痛みを、服を握り締めて耐える。
……大丈夫。
聖なら、きっと、江陽だって本気で好きになる。
――私の、大事な親友なんだから――……。
――ああ、今になって酔いが回ってきた。
クラクラするのは――ヤツの熱っぽい言葉にやられたせいじゃない。
あんなの、本気にしてどうするの。
――きっと、お見合いが嫌だから、私で手を打とうとでもいうのだろう。
――……男嫌いと女嫌いの恋愛なんて、成立するはずもないんだから。
「――づき、羽津紀ー?帰ってるのー?」
ぷっつりと切れた意識が、聞き慣れた声で戻って来て、私は、ボンヤリと起き上がると、辺りを見回した。
――ああ、そうだ。
あのまま、寝てしまったんだ。
私は、コンコン、と、叩かれ続けているドアを開け、顔を出す。
目の前には、心配そうに私を見下ろしている聖がいた。
「あ、やっと出てきた!ずっと、呼んでたんだよー。帰ってなかったのかと思ったー」
「ゴ、ゴメン。……意識が飛んでちゃって……」
そう言って彼女を中に入れ、コーヒーカップを棚から取り出す。
「あ、良いよー。すぐに部屋に戻るからさー」
すると、聖が玄関先でそう声をかけてくるので、手を止めた。
珍しい事もあるものだ。
大体、聖が部屋に来ると、一時間はダベっているのに。
「様子見に来ただけだよー。後、新情報?」
「……は?」
私が玄関に戻ると、聖が、内緒話をするように声を潜めながら言った。
「江陽クンの女嫌いの原因」
「え」
一瞬、心臓が跳ね上がってしまい、心の中で苦るが、顔には出さない。
聖は、私にその綺麗な顔を近づける。
「あのね、江陽クン、中学の時からモテまくってて、ストーカーみたいになっちゃった女子も、いっぱいいたんだって」
「……は?」
あまりの理由に、眉をしかめる。
「でもね、軽いヤツだけじゃなくて、高校の時は、家の特定とか、スマホののぞき見とか――結構、ヤバい事もされたんだってさ。それで、逃げるように大阪の大学受けたんだって」
「……それ……お友達情報……?」
さっき、二人で盛り上がっていたのは、そのせいか。
「うん。楠川クンに、高校の時のコト、いろいろ聞いてたんだー」
ニコリ、と、綺麗に微笑む聖は――いつもの、恋する女の顔だ。
――……やっぱり、聖には、幸せになってほしい。
その相手が、江陽でなければならないのなら――喜んで協力しよう。
「何か、精神的にやられた時もあって、そのせいで、吐きそうになるんだってさー」
「……そう。でも、だからって、不遜な態度を取って良い訳じゃないでしょう」
「でも、相当怖かったってコトだよねー」
「――じゃあ、アンタが癒してあげたら」
そう返すと、聖は、一瞬、目を丸くする。
「何よ」
「……羽津紀?」
「――何」
「……良いの?」
その問いかけの意味は――わからない振りをする。
「良いも悪いも、偽装とはいえ、アンタは彼女でしょう。――本気になったんなら、その立場を有効利用したらどう?」
私がそう言うと、聖は、困ったように眉を下げた。
「何よ」
「……羽津紀は、それで良いの?」
言外の意味を理解したくなくて、私は、うなづく。
「だから、私は、聖の味方なの。アンタが江陽が良いって言うなら、協力は惜しまないわよ」
「――……そっか……」
聖は、少しだけためらい、けれど、顔を上げる。
「わかった。――頑張ってみる」
「頑張りなさいな」
「うん!」
両手で拳を作ってうなづくと、聖は、今日は帰る、と、部屋を出た。
――私は、それを見送り――胸の奥のズキリとした痛みを、服を握り締めて耐える。
……大丈夫。
聖なら、きっと、江陽だって本気で好きになる。
――私の、大事な親友なんだから――……。