大嫌い同士の大恋愛
14.私は、私にできる事しかできないのだから
片桐さんと二人で、企画課の部屋の隅、軽い打ち合わせ用のパーティションに区切られたスペースに入る。
「まあ、ひとまず、見てみますか」
「――ハイ」
スペースには、会議用の机と、イスが向かい合わせにあるだけ。
お互いに座ると、片桐さんは、自分のノートパソコンを置き、課長から受け取った先方の企画書を私に見えるよう差し出す。
「うーん……コレだと、見づらいな。名木沢さん、隣に移っても良いかな」
「え、あ」
尋ねながら、彼は、既に、私の隣にイスを持って来て隣り合って座る。
狭いスペース、その距離は、肩が触れるほどだ。
「――……っ……」
その近さに、私は、一瞬、身じろぎする。
「名木沢さん?」
「あ、ハ、ハイ」
動揺する私の心を見透かすように、彼は微笑み、耳元で言った。
「――ごめんね。ちょっとだけ、公私混同」
「……片桐さん」
「まあ、誰に見られる訳でもないでしょ。ココ、集中できるように、みんなの視界から外れるような位置にあるんだし」
「あの、企画の方を……」
ささやく彼の吐息が耳をかすめて、身をすくめてしまう。
――明らかに、わかっていてやっている。
「そうだね。このままじゃ、セクハラ事案になっちゃうしね」
「おわかりなら、やめませんか」
「でも、言ったでしょ。チャンスがあるなら、押していくって」
「時と場合でしょう。今は仕事中です」
「じゃあ、プライベートなら良いのかな?」
「――片桐さん」
言いくるめられそうになり、私は、彼をにらみつける。
すると、スルリ、と、視線をかわされた。
「じゃあ、ひと通り目を通しますか」
そして、何事もなかったように離れると、片桐さんは、仕事モードに戻った。
そんな風に振り回されてしまい、何だか癪に障る。
私は、せめてもの抵抗に、と、目を皿のようにして、企画書をにらみつけたのだった。
「羽津紀ー!サングループとコラボなんて、スゴイねぇ!」
お昼になり、何故か、聖は江陽ではなく私を迎えに来て、開口一番そんな事を言い出した。
「――……情報早いわね……」
「えぇー?もう、本社中ウワサだよ。何なら、支社の方にも話回ってるみたいだよー?」
――株にも影響しそうな情報を、何でそう、あっさりと触れ回る……。
私は、がっくりと肩を落としながらも、聖を見上げた。
「それより、江陽と一緒じゃないの?」
「江陽クン、今日は、早退するって」
「え」
思わず、一班のヤツの席に視線を向けると、既に机の上は片付いていて、気配は無かった。
「――何したの、アイツ」
昨日の今日で、体調不良な訳は無いだろう。
聖は、指をアゴに当てながら、首を傾げた。
「何だろうねー?理由は言って無かったからさ」
「――そう」
二人の間でやり取りがあるのは――”恋人”だから、当然だ。
それが、たとえ偽装だろうと。
――なのに、何で、こんなに気になるのよ。
私は、ランチバッグを持つと、席を立つ。
「じゃあ、行きましょうか。席が埋まるとマズいしね」
「うん!」
満面の笑みで私にうなづく聖に、いつものように、見惚れられない。
――モヤモヤと疼く胸を押さえながら、私は、聖の先を歩き、休憩室へ向かった。
「まあ、ひとまず、見てみますか」
「――ハイ」
スペースには、会議用の机と、イスが向かい合わせにあるだけ。
お互いに座ると、片桐さんは、自分のノートパソコンを置き、課長から受け取った先方の企画書を私に見えるよう差し出す。
「うーん……コレだと、見づらいな。名木沢さん、隣に移っても良いかな」
「え、あ」
尋ねながら、彼は、既に、私の隣にイスを持って来て隣り合って座る。
狭いスペース、その距離は、肩が触れるほどだ。
「――……っ……」
その近さに、私は、一瞬、身じろぎする。
「名木沢さん?」
「あ、ハ、ハイ」
動揺する私の心を見透かすように、彼は微笑み、耳元で言った。
「――ごめんね。ちょっとだけ、公私混同」
「……片桐さん」
「まあ、誰に見られる訳でもないでしょ。ココ、集中できるように、みんなの視界から外れるような位置にあるんだし」
「あの、企画の方を……」
ささやく彼の吐息が耳をかすめて、身をすくめてしまう。
――明らかに、わかっていてやっている。
「そうだね。このままじゃ、セクハラ事案になっちゃうしね」
「おわかりなら、やめませんか」
「でも、言ったでしょ。チャンスがあるなら、押していくって」
「時と場合でしょう。今は仕事中です」
「じゃあ、プライベートなら良いのかな?」
「――片桐さん」
言いくるめられそうになり、私は、彼をにらみつける。
すると、スルリ、と、視線をかわされた。
「じゃあ、ひと通り目を通しますか」
そして、何事もなかったように離れると、片桐さんは、仕事モードに戻った。
そんな風に振り回されてしまい、何だか癪に障る。
私は、せめてもの抵抗に、と、目を皿のようにして、企画書をにらみつけたのだった。
「羽津紀ー!サングループとコラボなんて、スゴイねぇ!」
お昼になり、何故か、聖は江陽ではなく私を迎えに来て、開口一番そんな事を言い出した。
「――……情報早いわね……」
「えぇー?もう、本社中ウワサだよ。何なら、支社の方にも話回ってるみたいだよー?」
――株にも影響しそうな情報を、何でそう、あっさりと触れ回る……。
私は、がっくりと肩を落としながらも、聖を見上げた。
「それより、江陽と一緒じゃないの?」
「江陽クン、今日は、早退するって」
「え」
思わず、一班のヤツの席に視線を向けると、既に机の上は片付いていて、気配は無かった。
「――何したの、アイツ」
昨日の今日で、体調不良な訳は無いだろう。
聖は、指をアゴに当てながら、首を傾げた。
「何だろうねー?理由は言って無かったからさ」
「――そう」
二人の間でやり取りがあるのは――”恋人”だから、当然だ。
それが、たとえ偽装だろうと。
――なのに、何で、こんなに気になるのよ。
私は、ランチバッグを持つと、席を立つ。
「じゃあ、行きましょうか。席が埋まるとマズいしね」
「うん!」
満面の笑みで私にうなづく聖に、いつものように、見惚れられない。
――モヤモヤと疼く胸を押さえながら、私は、聖の先を歩き、休憩室へ向かった。