大嫌い同士の大恋愛
「どうかしたかな、名木沢さん?」
すると、課長の隣で話をしていた片桐さんが、先に声をかけてきた。
「――いえ、あの……課長、このコラボ企画、私の仕事の範囲を超えていないでしょうか」
「どういうコト?」
いぶかしげに尋ねる課長に、私は続ける。
「私にも、他の企画書のチェックの仕事などあります。企画に参加しなくても、上がってきた企画書をチェックすれば良いのではないかと」
そう訴えるが、課長は、あっさりと返した。
「いや、今回は、それを会議の進行中にして欲しいんだ」
「え?」
「全部詰めてから、キミにダメ出しされたら、二度手間だし――何より、向こうさんの体面にかかわる」
「――……は……はあ……」
私は、納得しきれず、眉を下げる。
「……でも、完成してからでないと、疑問点もハッキリしませんよ」
「じゃあ、最終確認まで放置しろと言うのかな?」
「い、いえ、そういう訳では……」
課長は、立ち上がると、私を見下ろす。
――まるで、威圧するように。
「あのね、名木沢クン。この企画は、向こうさんも労力を費やしているんだよ。修正だって、ウチだけでやる時と勝手が違う」
「――……ハイ」
「それに、コラボとはいえ、お互いのレベルを測るものにもなると思うんだよ。サングループなんて超大手に、ウチは、これだけできます、って、アピールできたら、今後の見通しも明るいと思わないかな?」
私は、手元に視線を向け、うなづく。
――課長の言う事も、もっともだとは、思う。
でも。
どうしても、頑なになってしまうのだ。
私は、私にできる事しかできないのだから。
足を引っ張るのがわかり切っているのなら、早々に逃げてしまいたい。
――申し訳無いが、私に、そこまでの上昇志向は無いのだから。
「――名木沢クン」
けれど、課長は、表情を変えて私を見やる。
――それは、いつもの飄々としたものではなくて。
「オレたちが、キミのわがままを聞けるのは、結果を出しているからだよ。――でもね」
いったん、区切るように息を吐き、課長は続ける。
「この企画は、キミという人間を知らない相手と作っていくという事を、わかっているかな」
「――……っ……」
その圧に、言葉は引っ込んでしまう。
いつもおちゃらけている雰囲気はあるが、一つの課をまとめる”長”だ。
私は、思わず前で組んでいた両手を握り締めた。
「ちなみに、名木沢クンを指名したのは、向こうさん」
「え」
私は、ギョッとして、課長を見る。
――先方、ってコトは、まさか――。
その表情に、課長はうなづいた。
「ああ、サングループの社長さん直々に、ウチの隠し玉が見てみたいとご指名だ」
「――え」
「まあ、社長が、何か吹き込んだんだろうけどねぇ」
暗にあきらめろと言われたようで、私は、つい、課長をにらみつけてしまった。
けれど、課長は、この話は終わり、と、ばかりに、再び片桐さんと話し出す。
私は、渋々ながら頭を下げて引き下がった。
けれど、自分の席に着き、書類を手にした途端、はた、と、気づく。
――もし、私の事が、江陽経由で知られているのだとしたら――……。
先日のお見合いの事も、知られているのかもしれない。
――そうじゃなきゃ、こんな一般人、大会社の社長が気に掛ける訳も無いだろう。
それに、江陽が一緒だというのも、引っかかる。
「――名木沢さん?」
「え、あ、ハイ?」
すると、軽く肩が叩かれ、ようやく我に返る。
片桐さんが、私をのぞき込み、心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫ですか?――どうしても、企画参加は難しそうでしょうか?」
私は、首を振って、それに答える。
「……いえ、大丈夫です」
ここでゴネていても、うなづいてはもらえないだろう。
――それなら、時間を無駄にする方が嫌。
私は、そう、自分を無理矢理納得させ、再び自分の仕事に戻ったのだった。
すると、課長の隣で話をしていた片桐さんが、先に声をかけてきた。
「――いえ、あの……課長、このコラボ企画、私の仕事の範囲を超えていないでしょうか」
「どういうコト?」
いぶかしげに尋ねる課長に、私は続ける。
「私にも、他の企画書のチェックの仕事などあります。企画に参加しなくても、上がってきた企画書をチェックすれば良いのではないかと」
そう訴えるが、課長は、あっさりと返した。
「いや、今回は、それを会議の進行中にして欲しいんだ」
「え?」
「全部詰めてから、キミにダメ出しされたら、二度手間だし――何より、向こうさんの体面にかかわる」
「――……は……はあ……」
私は、納得しきれず、眉を下げる。
「……でも、完成してからでないと、疑問点もハッキリしませんよ」
「じゃあ、最終確認まで放置しろと言うのかな?」
「い、いえ、そういう訳では……」
課長は、立ち上がると、私を見下ろす。
――まるで、威圧するように。
「あのね、名木沢クン。この企画は、向こうさんも労力を費やしているんだよ。修正だって、ウチだけでやる時と勝手が違う」
「――……ハイ」
「それに、コラボとはいえ、お互いのレベルを測るものにもなると思うんだよ。サングループなんて超大手に、ウチは、これだけできます、って、アピールできたら、今後の見通しも明るいと思わないかな?」
私は、手元に視線を向け、うなづく。
――課長の言う事も、もっともだとは、思う。
でも。
どうしても、頑なになってしまうのだ。
私は、私にできる事しかできないのだから。
足を引っ張るのがわかり切っているのなら、早々に逃げてしまいたい。
――申し訳無いが、私に、そこまでの上昇志向は無いのだから。
「――名木沢クン」
けれど、課長は、表情を変えて私を見やる。
――それは、いつもの飄々としたものではなくて。
「オレたちが、キミのわがままを聞けるのは、結果を出しているからだよ。――でもね」
いったん、区切るように息を吐き、課長は続ける。
「この企画は、キミという人間を知らない相手と作っていくという事を、わかっているかな」
「――……っ……」
その圧に、言葉は引っ込んでしまう。
いつもおちゃらけている雰囲気はあるが、一つの課をまとめる”長”だ。
私は、思わず前で組んでいた両手を握り締めた。
「ちなみに、名木沢クンを指名したのは、向こうさん」
「え」
私は、ギョッとして、課長を見る。
――先方、ってコトは、まさか――。
その表情に、課長はうなづいた。
「ああ、サングループの社長さん直々に、ウチの隠し玉が見てみたいとご指名だ」
「――え」
「まあ、社長が、何か吹き込んだんだろうけどねぇ」
暗にあきらめろと言われたようで、私は、つい、課長をにらみつけてしまった。
けれど、課長は、この話は終わり、と、ばかりに、再び片桐さんと話し出す。
私は、渋々ながら頭を下げて引き下がった。
けれど、自分の席に着き、書類を手にした途端、はた、と、気づく。
――もし、私の事が、江陽経由で知られているのだとしたら――……。
先日のお見合いの事も、知られているのかもしれない。
――そうじゃなきゃ、こんな一般人、大会社の社長が気に掛ける訳も無いだろう。
それに、江陽が一緒だというのも、引っかかる。
「――名木沢さん?」
「え、あ、ハイ?」
すると、軽く肩が叩かれ、ようやく我に返る。
片桐さんが、私をのぞき込み、心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫ですか?――どうしても、企画参加は難しそうでしょうか?」
私は、首を振って、それに答える。
「……いえ、大丈夫です」
ここでゴネていても、うなづいてはもらえないだろう。
――それなら、時間を無駄にする方が嫌。
私は、そう、自分を無理矢理納得させ、再び自分の仕事に戻ったのだった。