大嫌い同士の大恋愛
15.そのままで良いんだよ
「あれ、羽津紀、江陽クン、帰ってたんだ」

「聖!」

 エレベーターの到着音とともに声をかけられ、私は、くっついていた江陽を引きはがし、聖に振り返る。
「どうかしたのー?今、何か、ウチの会社の女の人達が、キレながら出て行ったけど」
 いつもと変わらない口調で言う彼女に、私は、少しだけ拍子抜けしながら返す。
「――ああ、この前、江陽の部屋に押しかけようとしてきた人達が、また、来たのよ」
「そっかぁ。大変だねぇ、江陽クン」
 けれど、聖は、まるで、他人事のように言うので、私は眉を寄せる。
「……聖、アンタ、どうしたのよ」
「え?」
 ニコリ、と、いつもの微笑みを返されるが、今は、見惚れてはいられない。

 ――江陽のコトはどうなったの。

 そう聞きたかったけれど、当の本人が、後ろで私達の様子をうかがっているので、口は開けなかった。
 すると、聖は、あっさりと私に言った。
「あ、そうだ、羽津紀。アタシ、江陽クンに振られたからさ」
「は?」
 あまりに唐突な言葉に、目を丸くして聖を見る。
 そして、勢いよく振り返り、江陽をにらんだ。
「……江陽!」
「……ンだよ」
「アンタ、何、勝手に――」
 そもそも、聖に彼女役を頼んだのは、アンタでしょうに!
 そう続けようとしたが、江陽はふてくされたように視線を逸らす。
「……やっぱ、無理だったからな。それに、お互い納得の上だ」
「な、何よ、それ!聖は――」
 本気になったって言ってるのに――それを、あっさりと振ったっていうの⁉
 そう、食ってかかろうとした私の両肩を押さえ、聖は、苦笑いでのぞき込んできた。
「羽津紀ー、あのね、コレはアタシと江陽クンの間で終わったコトなんだよ?」
「聖」
「――だから、羽津紀が気にするコトなんて、何も無いんだよ」
「聖!」
 彼女は、そう言うと、じゃあね、と、自分の部屋に入る。
 私は、それを引き留める事もできず、ただ、突っ立っているだけ。
「羽津紀」
「……何」
 そんな私を気遣ってなのか、江陽が、そっと、私の頭を撫でた。
「……聖のコトは、気にしてやるな」
「何を偉そうに――」
「ちゃんと、アイツの気持ちは聞いて――その上で、断った」
「え」
 思わぬ言葉に、私は、江陽へと向き直る。
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