大嫌い同士の大恋愛
「どういう事よ。答えによっては、黙っていられないから」
 私は、江陽を問い詰めるように尋ねた。
「――……片桐班長といるトコ出くわした時に、オレ、お前のコト追いかけただろ。……まあ、最初からバレバレだったんだがな、店に戻った時、お前を好きなのかと聞かれた」
「そ、そんなの――」
 江陽は、真っ直ぐに私を見つめる。
 ――その、熱を持った視線から、逃げられない。
「ちゃんと、アイツには正直に話しておいた。――本気には、本気で返さなきゃ、失礼だからな」
 私は、聖の態度を思い返し、唇を噛む。

 ――何で、気づかなかったんだろう。
 ――でも、気づいたところで――私に、何ができたんだろう。

 後悔しかできない私を、江陽は、そっと抱き寄せ、背中を軽くたたいた。
「……何よ」
 イラつきを感じながら、にらみ上げると、おでこに軽くキスをされる。
「バッ……!何っ……‼」
 私はギョッとして、勢いよくヤツを引きはがすと、距離を取った。
 けれど、ヤツは、クスリ、と、微笑んで返す。
「気にするなとは言わねぇが――普通でいてやれよ。アイツは、お前に気を遣ってほしい訳じゃねぇだろ」
「――アンタが言うな!」
 何を知ったような口を聞いてくれる!
 私は、踵を返すと、自分の部屋に飛び込むように入った。

 ――何で、振ったアンタが平然としてんのよ!

 私は、イラつきながら、冷蔵庫を開け、お茶のボトルを取り出す。
 そして、コップに注いで一気にあおり、ダン、と、力任せにテーブルに置いた。

 ――”やけ食い”?

 聖は、お昼に、そんな事を言っていた。
 その笑顔に違和感があったはずなのに。
 今まで、合コンが不発に終わったり、彼氏と別れたりしていても、そんな風になった事は無かった。
 ――それだけ、聖が、江陽を本気で好きになっていたという事で。
 それを壊した原因が、私自身だという事が――重くのしかかる。

 恋愛と友情なら、迷う事無く、友情を取る。

 ――聖と一緒にいて、その思いは、揺るぎないものだと思っていたのに。

 江陽が、私を優先した時、どこかで――うれしかった。

 そんな自分が、許せない。

 私は、唇を噛みしめる。
 そして、不意に、片桐さんの言葉を思い出した。


 ――彼氏のフリなら、大歓迎だよ。


 もし――私が、他の人と付き合うのなら、まだ、聖に望みはあるんじゃないだろうか。
 江陽が、あきらめてくれるかはわからないけれど――少なくとも、私が、ヤツを選ばないという事がわかれば――。
 そう思えば、それが最善のように思えてきた。

 私は、スマホを取り出すと、先日、半ば強引に交換させられた片桐さんの連絡先を出す。
 そして、意を決して、彼氏のフリのお願いを送ったのだった。
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