大嫌い同士の大恋愛
2.天敵認定
 玄関先でお互い、向かい合って固まっていると、反対隣の部屋から聖が顔を出してきた。

「羽津紀ー、おはよー、どうかしたー?」

 彼女は、寝起きの顔で出て来ようとしたが、私の状況を見て、一瞬で引っ込んだ。
「ちょっ……聖!見捨てないで!」
「待って、待って!イケメン前にして、スッピンは無いの!」
「関係無いでしょ、アンタは!」
「あるってば!」

「うっ……るせぇっ……!!」

 言い合いを始めた私達を、目の前の男がイラつきながら、怒鳴りつける。
「ああ、もう、これだから女は嫌なんだよ!」
 そう言いながら、持っていた箱を私に押し付けた。
「引っ越しの挨拶!今日から隣!以上!」
「――え、あ」
 反射で受け取るが、ドアからこっそりと顔を出した聖を見やり、そのまま手渡した。
「――だそうよ、聖」
「え、羽津紀がもらったんでしょ」
「男からのもらいものを、部屋に入れたくない」
「あぁ⁉どういう意味だ、テメェ!」
 すると、人の会話に入り込んできた男は、私を見下ろして凄んでみせる。

「言葉の通りですが。それでは」

 私は、そう言ってドアを閉めた。
 バタン、と、無機質な音が部屋に響く。
 その向こう側で、毒づきながら自分の部屋に戻った男の気配を感じ、大きく息を吐いた。

 ひとまず、アイツのせいで、貴重な休日をつぶすのも業腹なので、通常通り、掃除洗濯、日々のお弁当のおかずの作り置きなど、いろいろとやる事をこなしていると、インターフォンが鳴り響く。
 手を止め、画面を見やれば、聖がのぞきこんでいた。

「何?」

「羽津紀ー、ちょっと入って良い?」

 私の機嫌が直っていないと思ったのか、聖は、恐る恐る尋ねる。
 それに苦笑いを浮かべ、うなづくと、すぐに玄関の鍵を開けた。

「お邪魔ー。羽津紀、機嫌直った?」

「別に、いつも通りよ」

「ウソだー。あの人が隣とか、ありえない、って、キレてそうに見えたんだけどー?」

「気のせいよ」

 平行線になっていくのに気づき、私は、聖を部屋にうながした。
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