大嫌い同士の大恋愛
片桐さんと一緒に会社に到着し、社屋に入っていくと、チラチラとあちらこちらから視線が向けられた。
「気にしないで。堂々として」
「ハ、ハイ」
「何なら、手でも繋ぐ?」
「――会社では、やめましょう」
「了解」
私が本気でにらむと、彼は、あっさりとうなづく。
――まるで、どこまで許されるか、ラインを探られているようで、落ち着かない。
「じゃあ、お昼は?」
「……それは、まあ、大丈夫です」
「了解」
その答えに、片桐さんは、満足そうにうなづく。
「あと、今日、仕事終わりに時間は取れる?」
「え?」
私が、隣の彼を見上げると、耳元で囁かれた。
「すり合わせが必要でしょ、いろいろと。――今後の打ち合わせと思って」
「……わ、わかりました……」
いちいち、距離が近いが、恋人というのなら仕方ない。我慢しなくては。
片桐さんは、仕事上でなら尊敬できる人なのに――プライベートでは、こちらがたじろぐほどに、距離を詰めてくる。
それは、私を好きだからなのか、素でそうなのか、判断に困ってしまう。
エレベーターを待ちながら、私は、隣の彼を見上げ、ひたすら頭を悩ませたのだった。
朝からそんな風だったせいか、微妙に仕事に集中できず、書類を読み込もうとしても頭に入ってこない。
そうこうしているうちに、サングループコラボ企画の打ち合わせが入り、仕方なく、机に置いて立ち上がる。
「名木沢さん、行こうか」
すると、片桐さんに声をかけられ、うなづく。
課内の視線を一手に受け、消耗してしまうが、これも聖のため。
そう自分に言い聞かせる。
「エレベーターにする?」
「いえ、階段で行けます」
たった一階上るだけだ。さすがに、そこまで体力不足ではない。
二人で階段を上って行くと、会議室の前で、江陽が待ち構えていて、私は、一瞬、足が止まった。
「――お疲れ様です」
「お疲れ様。今日は、重役出勤かな?」
「……私用です」
片桐さんの問いかけに、江陽は言葉を濁す。
――もしかして、サングループの方に呼ばれていたのか。
親御さんが、何か言ってきたのかもしれない。
けれど、それを口に出す事はできない。
片桐さんは、不審そうに江陽に視線を向けるが、部屋のドアを開けた。
「まあ、会議に影響無ければ良いよ」
そう言って中に入ると、既に、企画関係の人間が揃っていて――そして、見慣れないスーツの男性が二人、女性が一人、既に席に着いていた。
「ああ、全員揃ったな。こちら、サングループ側のコラボ企画担当の方々だ」
待ち構えていた神屋課長が、私達を手招きし、全員に紹介した。
彼等は、揃って立ち上がり、頭を下げる。
「初めまして。サングループ、企画販売促進課課長長嶺と申します」
そう言って、貫禄のある彼は、神屋課長へ名刺を差し出した。
一応、初顔合わせのようで、お互いに名刺交換を始める。
一通り終えると、全員で席に着き、会議の進行は神屋課長がするようだ。
私は、末席で、一人場違い感を感じてしまう。
――本当に、私、必要なんだろうか。
百戦錬磨感が漂うサングループのメンバーを見やり、身を縮こませてしまう。
それは、私だけのようで、他のウチのメンバーは、いつも通りの態度だ。
何度か経験があるのだろうから、今さら、動揺しないのだろう。
そして、チラリと、ちゃっかり隣に座った江陽を見やり、ふてくされてしまう。
――何で、コイツも、平然としてるのよ。
まるで、私だけがあたふたしているようで、腹が立つ。
そんな中、神屋課長がホワイトボードの前に立ち、口を開いた。
「それでは、まず、コラボ企画の概要を――」
「やあやあ、会議は進んでいるかなぁ⁉ちょっと、この爺も、混ぜてはくれないかね」
――は?
すると、それを遮るように――社長が飛び込むように入って来て、完全に場は凍った。
「し、社長!」
さすがに、この場では勘弁してほしい。
神屋課長が、慌てて社長を止めようとすると、更に後ろに人影が見え――今度は、サングループ側のメンバーが凍った。
「――し……社長……??」
「気にしないで。堂々として」
「ハ、ハイ」
「何なら、手でも繋ぐ?」
「――会社では、やめましょう」
「了解」
私が本気でにらむと、彼は、あっさりとうなづく。
――まるで、どこまで許されるか、ラインを探られているようで、落ち着かない。
「じゃあ、お昼は?」
「……それは、まあ、大丈夫です」
「了解」
その答えに、片桐さんは、満足そうにうなづく。
「あと、今日、仕事終わりに時間は取れる?」
「え?」
私が、隣の彼を見上げると、耳元で囁かれた。
「すり合わせが必要でしょ、いろいろと。――今後の打ち合わせと思って」
「……わ、わかりました……」
いちいち、距離が近いが、恋人というのなら仕方ない。我慢しなくては。
片桐さんは、仕事上でなら尊敬できる人なのに――プライベートでは、こちらがたじろぐほどに、距離を詰めてくる。
それは、私を好きだからなのか、素でそうなのか、判断に困ってしまう。
エレベーターを待ちながら、私は、隣の彼を見上げ、ひたすら頭を悩ませたのだった。
朝からそんな風だったせいか、微妙に仕事に集中できず、書類を読み込もうとしても頭に入ってこない。
そうこうしているうちに、サングループコラボ企画の打ち合わせが入り、仕方なく、机に置いて立ち上がる。
「名木沢さん、行こうか」
すると、片桐さんに声をかけられ、うなづく。
課内の視線を一手に受け、消耗してしまうが、これも聖のため。
そう自分に言い聞かせる。
「エレベーターにする?」
「いえ、階段で行けます」
たった一階上るだけだ。さすがに、そこまで体力不足ではない。
二人で階段を上って行くと、会議室の前で、江陽が待ち構えていて、私は、一瞬、足が止まった。
「――お疲れ様です」
「お疲れ様。今日は、重役出勤かな?」
「……私用です」
片桐さんの問いかけに、江陽は言葉を濁す。
――もしかして、サングループの方に呼ばれていたのか。
親御さんが、何か言ってきたのかもしれない。
けれど、それを口に出す事はできない。
片桐さんは、不審そうに江陽に視線を向けるが、部屋のドアを開けた。
「まあ、会議に影響無ければ良いよ」
そう言って中に入ると、既に、企画関係の人間が揃っていて――そして、見慣れないスーツの男性が二人、女性が一人、既に席に着いていた。
「ああ、全員揃ったな。こちら、サングループ側のコラボ企画担当の方々だ」
待ち構えていた神屋課長が、私達を手招きし、全員に紹介した。
彼等は、揃って立ち上がり、頭を下げる。
「初めまして。サングループ、企画販売促進課課長長嶺と申します」
そう言って、貫禄のある彼は、神屋課長へ名刺を差し出した。
一応、初顔合わせのようで、お互いに名刺交換を始める。
一通り終えると、全員で席に着き、会議の進行は神屋課長がするようだ。
私は、末席で、一人場違い感を感じてしまう。
――本当に、私、必要なんだろうか。
百戦錬磨感が漂うサングループのメンバーを見やり、身を縮こませてしまう。
それは、私だけのようで、他のウチのメンバーは、いつも通りの態度だ。
何度か経験があるのだろうから、今さら、動揺しないのだろう。
そして、チラリと、ちゃっかり隣に座った江陽を見やり、ふてくされてしまう。
――何で、コイツも、平然としてるのよ。
まるで、私だけがあたふたしているようで、腹が立つ。
そんな中、神屋課長がホワイトボードの前に立ち、口を開いた。
「それでは、まず、コラボ企画の概要を――」
「やあやあ、会議は進んでいるかなぁ⁉ちょっと、この爺も、混ぜてはくれないかね」
――は?
すると、それを遮るように――社長が飛び込むように入って来て、完全に場は凍った。
「し、社長!」
さすがに、この場では勘弁してほしい。
神屋課長が、慌てて社長を止めようとすると、更に後ろに人影が見え――今度は、サングループ側のメンバーが凍った。
「――し……社長……??」