大嫌い同士の大恋愛
16.恋愛に変換するのは、もったいない
 会議が終わり、疲弊しながらも企画課に戻ると、もう、あと五分でお昼休みだった。
 結局、私が発言する機会は無く、ただ、皆さんの意見を聞いているだけ。
 もらっていたサングループ側の企画書の内容で、多少気になったところはあるものの、向こうのメンバーからの説明で消化できた気がするので、そのまま様子を見る事にした。

「ああ、名木沢クン、ちょっと良いかな」

 自分の机の上を簡単に片づけていると、後からやってきた課長がドアの方から手招きするので、私は、そちらへ向かう。
「何でしょうか」
「あのさ、三ノ宮くんのコトなんだけど」
「――私には、何もできませんが」
 即座に拒否をする私に、課長は、肩をすくめると、自販機に小銭を入れた。
「何が良い?」
「――賄賂ですか」
「説得料みたいなモノ」
「必要ありません」
 そもそも、私に説得しろというのか。
 あの、完全に拗ねてしまった江陽を。
 課長は、私のしかめ面を見やると、苦笑いで、コーヒーのボタンを押す。
 ガタン、と、缶が落ちる音が響き、それは、すぐに課長の手に渡った。
「あーっと……名木沢クンも、三ノ宮くんも、誤解しているみたいだけど」
「――何がでしょう」
「三ノ宮くんが、今回のコラボ企画のメンバーに選ばれたのは、彼の父親の関係じゃないから」
「え」
 不意打ちを喰らい、目を丸くする私に、課長は持っていた缶コーヒーを手渡した。
 思わず受け取ってしまうが、それどころではない。
 私は、課長を真っ直ぐに見ると、尋ねた。
「……どういう事ですか」
「今のウチのメンバーって、関東出身者ばかりなんだよね。ちょっと前まで、関西出身者が数人いたんだけど、異動になっちゃって」
「……はあ……」
 話の方向が見えず、私は、缶コーヒーを持ったまま、気の無い相槌を打つ。
「商品は、全国に渡るものだし、向こうの味覚を知っている人間が欲しかったのが大きいんだよ。でも、こっちに来られそうな人間が、彼しかいなかった」
「こ……三ノ宮さんは、こちらの出身ですが」
「でも、向こうに七年はいたそうじゃない。それに、彼、関西営業部のトップ3に入るくらいだし、向こうの傾向も熟知しているんじゃないかな」
「――え」
 私は、それ以上言葉が出ず、視線を下げた。
 ウチの営業部は関東、関西、東北北海道と分かれていて、そこから、それぞれの支社、支店に配属されている。
 各所に直接在籍はしておらず――なので、関西営業部というだけでも、その数は三桁だ。
 そのトップ3なんて、一体、何をしたんだ、ヤツは。
「まあ、他にも打診はしたんだけど、家庭持ちばかりでね。結局、地元もこっちだし、独り身の身軽さもあって、彼に白羽の矢が立ったんだよ」
 課長は、そう言いながら、自分の分の缶コーヒーを自販機から拾い上げた。
「――そういう訳で、簡単に逃げられても困るんだよ、こっちもさ」
「……っ……」
「頼んだよ、名木沢クン?」
 断れない事情を聞いてしまい、私は、心の中で苦る。

「……し……承知しました……」

 そう言うしか無かった。
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