大嫌い同士の大恋愛
課長との話が終わるとほぼ同時に、昼休みに入る。
部屋からゾロゾロと出てくる同僚とすれ違いながら、自分の席にたどり着くと、両手を机の上に置き、はああ、と、ため息をついた。
「話は終わったかな、羽津紀さん?」
「……か、片桐さん」
そんな私をのぞき込み、片桐さんは、ニコリ、と、穏やかに微笑む。
「昼休みだし、名前で呼んでよ」
「……でも」
一応、会社なのだから。
そうためらっていると、片桐さんは、私の頭を軽く叩いた。
私は、彼をチラリと見上げる。
「ダメかな?」
「……あの……終業後では、いかがでしょうか……」
最大限譲った提案に、片桐さんは、満足そうにうなづく。
「うん。じゃあ、約束だね。――お昼に行こうか」
「あ、ハ、ハイ」
私は、うなづいてみたものの、聖が来ていない事が気になって、チラリと部屋の入り口に視線を向ける。
それに気づいた片桐さんは、眉を下げた。
「久保さんも一緒なのかな?」
「――あ、いえ、今日、顔を合わせていないので……」
その返事に、彼は驚いた顔を見せる。
「え、そうなの?てっきり、話がついていたんだとばかり」
「たぶん、出勤はしていると思うんですが……」
「じゃあ、休憩室見てみようか」
片桐さんの言葉にうなづくと、私は、彼と一緒にエレベーターに乗る。
数十秒ほどで二階に到着し、ざわついている休憩室をのぞき込むが、聖の姿は無かった。
――もしかして、休んでる……?
そんな不安がよぎり、眉を下げて隣の片桐さんを見上げると、彼も戸惑ったように私を見やる。
「いないね」
「……ハイ」
――どうしよう。
――今までなら、失恋しても、やけ酒してグチをこぼしまくって――翌日には、ケロッとしていたのに……。
やっぱり、今回だけは――江陽にだけは、本気の度合いが違っていたんだろうか。
私は、視線を下げ、唇を噛む。
けれど。
「あれ、羽津紀?」
その張本人の声が後ろから聞こえ、私は、勢いよく振り返った。
「聖!」
「片桐さんとお昼なの?アタシ、お邪魔?」
激しく動揺している私とは対照的に、いつものように、あっけらかんとしている聖の手には、コンビニの袋が下がっていた。
どうやら、お昼を買いに出ていただけだったようだ。
「……聖、アンタ、今朝、早かったの?」
声をかけても返事が無かったのだ。
そう尋ねると、聖は、バツが悪そうに肩をすくめる。
「ゴメン、ゴメン。……実はさ、外泊してたんだー」
「……は……??」
耳慣れない言葉に、目を丸くする私に、聖は笑って続けた。
「何て言うかー……傷心旅行?お泊まり?まあ、何か、一人になりたくてさ」
「……聖」
私は、意を決して、片桐さんの腕を取る。
「羽津紀ー?」
「名木沢さん?」
「……えっと、ひ、聖……私、片桐さんと、お付き合いする事になったからっ……」
「――え?」
さすがに目を丸くした聖は、片桐さんを見上げ、私に視線を戻す。
「……どういうコト?」
「どうもこうも、言葉通りだから」
「え、でも、江陽クンは――」
「そもそも、アイツとは、何でもないのよ」
「でも、でも」
「だからっ……」
私は、引き下がろうとしない聖を、真っ直ぐ見つめる。
「――聖が、あきらめる必要なんて、無いんだからね」
「……羽津紀」
そう言って、片桐さんの腕を引いたまま、空いている席に向かう。
途中に向けられた野次馬の視線は、無視しながら――。
部屋からゾロゾロと出てくる同僚とすれ違いながら、自分の席にたどり着くと、両手を机の上に置き、はああ、と、ため息をついた。
「話は終わったかな、羽津紀さん?」
「……か、片桐さん」
そんな私をのぞき込み、片桐さんは、ニコリ、と、穏やかに微笑む。
「昼休みだし、名前で呼んでよ」
「……でも」
一応、会社なのだから。
そうためらっていると、片桐さんは、私の頭を軽く叩いた。
私は、彼をチラリと見上げる。
「ダメかな?」
「……あの……終業後では、いかがでしょうか……」
最大限譲った提案に、片桐さんは、満足そうにうなづく。
「うん。じゃあ、約束だね。――お昼に行こうか」
「あ、ハ、ハイ」
私は、うなづいてみたものの、聖が来ていない事が気になって、チラリと部屋の入り口に視線を向ける。
それに気づいた片桐さんは、眉を下げた。
「久保さんも一緒なのかな?」
「――あ、いえ、今日、顔を合わせていないので……」
その返事に、彼は驚いた顔を見せる。
「え、そうなの?てっきり、話がついていたんだとばかり」
「たぶん、出勤はしていると思うんですが……」
「じゃあ、休憩室見てみようか」
片桐さんの言葉にうなづくと、私は、彼と一緒にエレベーターに乗る。
数十秒ほどで二階に到着し、ざわついている休憩室をのぞき込むが、聖の姿は無かった。
――もしかして、休んでる……?
そんな不安がよぎり、眉を下げて隣の片桐さんを見上げると、彼も戸惑ったように私を見やる。
「いないね」
「……ハイ」
――どうしよう。
――今までなら、失恋しても、やけ酒してグチをこぼしまくって――翌日には、ケロッとしていたのに……。
やっぱり、今回だけは――江陽にだけは、本気の度合いが違っていたんだろうか。
私は、視線を下げ、唇を噛む。
けれど。
「あれ、羽津紀?」
その張本人の声が後ろから聞こえ、私は、勢いよく振り返った。
「聖!」
「片桐さんとお昼なの?アタシ、お邪魔?」
激しく動揺している私とは対照的に、いつものように、あっけらかんとしている聖の手には、コンビニの袋が下がっていた。
どうやら、お昼を買いに出ていただけだったようだ。
「……聖、アンタ、今朝、早かったの?」
声をかけても返事が無かったのだ。
そう尋ねると、聖は、バツが悪そうに肩をすくめる。
「ゴメン、ゴメン。……実はさ、外泊してたんだー」
「……は……??」
耳慣れない言葉に、目を丸くする私に、聖は笑って続けた。
「何て言うかー……傷心旅行?お泊まり?まあ、何か、一人になりたくてさ」
「……聖」
私は、意を決して、片桐さんの腕を取る。
「羽津紀ー?」
「名木沢さん?」
「……えっと、ひ、聖……私、片桐さんと、お付き合いする事になったからっ……」
「――え?」
さすがに目を丸くした聖は、片桐さんを見上げ、私に視線を戻す。
「……どういうコト?」
「どうもこうも、言葉通りだから」
「え、でも、江陽クンは――」
「そもそも、アイツとは、何でもないのよ」
「でも、でも」
「だからっ……」
私は、引き下がろうとしない聖を、真っ直ぐ見つめる。
「――聖が、あきらめる必要なんて、無いんだからね」
「……羽津紀」
そう言って、片桐さんの腕を引いたまま、空いている席に向かう。
途中に向けられた野次馬の視線は、無視しながら――。