大嫌い同士の大恋愛
 お昼休みも終わりに近づき、徐々に席が空いていく中、私は、空になったお弁当箱を片づけると、片桐さんに尋ねた。
「あの、この前、聖が容器がおしゃれな方が良いって言ってましたが……その後、何か案が出ましたか?」
 持ち歩くなら、気分が上がる方が良いのは確か。
 けれど、実用的な部分も考えないとならないのだ。
 すると、片桐さんは、苦笑いで首を振った。
「何か、メンバー全員、迷走中。そもそも、おしゃれの定義がね」
「ああ……」
 確かに、そういう感覚的なものは、コレだと決められない。
「――それなら、いっそ、持つ人に決めてもらえば」
「――え?」
 私がこぼした言葉を、片桐さんは、耳ざとく拾う。
「名木沢さん、もう少し具体的に」
「え、あ、いえ、あの……」
 ――こちらが提案するのでなく、持つ人の好みに任せてしまえば良いのでは。
 そう続けると、彼は、思案顔になる。
 そして、すぐに、微笑んで返された。
「そうだね。あえての、なら、提案しやすいね。ウチのコストも削減できるし――持つ人達でカスタマイズできる」
「それを面倒だと思われないように、各詰め替え用の袋に、名前シールのようなものを付ければ、ベースはできるのではないでしょうか。貼るだけなら、抵抗は少ないと思います」
「うん、面白いね」
「ハイ」
 まるで、大発見をした子供のように笑う片桐さんに、同じように微笑んで返す。

 ――ああ、こういうところは、一緒にいて、気が楽だな……。

 彼と話す時は、江陽とは大違いで、ピリピリする事も無く、終始穏やかで、感覚も似ている気がする。

 ――アイツなんて……顔を合わせれば、二言目にはケンカ腰になるんだから。

 けれど、すぐに恋愛に変換するのは、もったいないような気がして、私は、笑顔を作ったまま片桐さんとのお昼を終えた。


 午後からも、江陽の姿は見えず、私は、終業間近に課長の元に向かった。
「あの、課長」
「ん?」
「――こ……三ノ宮さんの姿が見えませんが」
 説得しようにも、これじゃあ、できるはずが無い。
 すると、課長が困ったようにうなづいて返した。
「ああ、彼、今日は欠勤で良いって連絡があってね。さっき、人事に有給の手続き取ったよ」
「――え」
「さすがに、あの場にいたら、彼のショックな気持ちも、想像つくしね。見たら、有給だいぶ溜まってたし、ちょうど良いから――まあ、本人には無理矢理承諾してもらったけどね」
 それじゃあ、私は、いつ、ヤツを説得したら。
 そう思ったら、課長は、あっさりと続けた。
「でも、キミ達、部屋が隣でしょ。帰ったら顔合わせられるんじゃないの」
「――……課長!」
 何を、そんなあっさりと!
 こんな気まずい状態で、会いたくはないのに。
「まあ、残業手当は出ないけど、今度昼メシおごるからさ」
「……あくまで、仕事上の頼みでは無いと」
「彼がいないと、向こうさんの顔も立たないしね」
「――……承知致しました」
 それを出されると、断ろうにも断れない。
 社長の息子と企画を作るという、衝撃の事実を急に目の前に突き出された彼等を思うと、それくらいしないと、申し訳が立たない。
 これから、しばらく顔を合わせないといけないし――何より、企画に支障が出たら、困るのだから。
 私は、肩を落としながら、自分の席に戻ったのだった。
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